2
『な、何でも分かっちゃうなんてすごいですね!』
あからさまだが話を変えれば、銀時さんは不服そうな顔をしながらもパッと私から離れた。
「まぁねー。あ、でも今なら分かんない事1つだけあるかも。」
『なにか、分からないんですか?』
あれ程に自信満々だったのに分からないって事は、相当な秘密事項なんだろうか。
もしくは隠すのがうまいとか。
「いや、高杉の様子。最近あいつおかしいんだよね。」
『……と、言いますと?』
晋助の、様子?
別に見る限りではおかしいところなんてないはずなんだけどなぁ。
まぁあえていうならば、近いし、強引だし、セクハラだし、"いつも通りおかしい"って感じだけど。
「最近妙に機嫌が良くてさ。今日だって仕事でここにこれないあいつのとこに、わざわざこの優しい銀さんがあいつのムカつくくらいキレイで大きな社長室まで自慢しに行ってあげた訳よ。」
『はぁ…。』
なんだか銀時さんの言葉が皮肉にしか聞こえない気がするんだが…。
っていうかわざわざ社長室まで行くなんてどんだけヒマなんだよ銀時さん。
「そしたらさ、」
『そしたら?』
「あいつ、いつもなら不機嫌になって俺も行くって駄々こねるクセに、今日は「勝手に行けば良いだろ」って余裕な顔で笑ってんだよねー。しかもあげくの果てには俺の事鼻で笑いやがって。もう銀さん悔しい!」
キーッとどこかの少女マンガの敵役みたいに悔しがる銀時さんに、苦笑いしか出てこない。
うん、晋助が銀時さんを鼻で笑う姿が、安易に想像が出来てしまう。
「名前ちゃんなんでか知ってる?」
『は、はは…。知らないですよ。』
そりゃー家に帰ったら嫌でも会っちゃいますからね。
なんて銀時さんに言える訳もなく、私はただただ苦笑いをするばっかりだった。
なんてやり取りがあった、今日の夜中の仕事。
結局銀時さんは女の人に呼ばれて苦笑いしながら私に手を振って消えて行ってしまった。
そして仕事も終わり家に帰ってきた私は今、お風呂にも入って寝る準備万端な状態。
時計を見れば丑三つ時はとうに過ぎていた。
だけど、私は一人。
この広い部屋には今だに晋助は帰ってきていない。
ただでさえ私は深夜のバイトなのに、それ以上に帰りが遅いなんて相当忙しいのかな。
待てど待てども帰ってこない家主に、座っているのも疲れてソファにごろんと寝転がった。
『遅い、なぁ。』
一人で使うには大きすぎる部屋に、少しだけ寂しくなった。
晋助はいつも、この誰もいない部屋に疲れた身体で帰ってきてるんだろうか。
そう思ったらなんだか切なくなって避けるように時計から目を逸らした。
< >戻る