カチカチ、と時間が刻まれていく時計を眺めながら、私は大きなソファの上でボーッとしていた。


それは過酷な連勤の疲れなのか、はたまた睡眠不足のせいなのかは分からないけど。


そんな頭で、思い出すのは数時間前のバイトの事。









真夜中に似合わず眩しいくらいのライト、箱の中には眠らない人達で溢れかえっていた。


揺れる、人、人、人。


そんな光景を自身の目にうつしながら作り出していくのは注文されたアルコール。


いつもの如く、私は来ては立ち去っていく人に愛想の良い笑顔を向けていた。




「名前ちゃん。」

『あ、銀時さん!』

「いつもの、お願いね。」

『はい!』


不意に現れたのは、いつものように飲み明かしていた銀時さん。

結構な量を飲んでいるのか、ご機嫌な様子で頬をうっすらと赤らめていた。


"いつもの"と頼まれたお酒は、いちご味のリキュールにミルクを足したもの。


いわば、いちごミルク味のお酒だ。


高級とは言え同じお酒を飲み続けているのは嫌らしく、不意に口直しに甘いお酒を飲みたくなる…らしい。


『はい、お待たせしました。』

「どーもォ。」


グイッと良い飲みっぷりでグラスを空にした銀時さんは、そうだ、と何かを思い出したように私を見た。


「そういや名前ちゃんさ、家壊れたんだって?」

『なんでそれを…!?』


銀時さんには言ってないはずなのに…!

っていうか最低限の人しか知らないはずなのに。


「銀さんの情報通をあなどってもらっちゃ困るね。俺が調べて分からないことはないから!」

『…マジですか。』


自信満々な銀時さんに開いた口が塞がらない。

っていうか昔同じような事を晋助にも言われたような気がするんだけど。


あれ?この人達には私のプライバシーというものは存在しないんですか?


「頼ってくれりゃーいろいろと手配してあげたのに。」

『や、でも悪いし…。』

「ぜーんぜん!名前ちゃんの為だったら銀さんの暖かい布団の半分をあけてあげたのに!」

『……。』


手配ってそういう事か。

頼まなくて良かったと心底思った。


「で?」

『へ?』

「今、どこに住んでるの?」


グンッと近付いてきた銀時さん。

距離が近くて思わず1歩後ろに引き下がってしまった。


『と、友達のところにお世話になってます!』

「…本当?」

『本当です!』


晋助を"友達"という括りに入れてしまって良いのか分からないけれど、少なからずは間違っていないはず。

っていうか疑っている銀時さんをかわすにはそう答えるしかない気がしてしまう。


逆になんて答えればいいか分からなくて、私は焦るばっかりだ。


 
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