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『ちょっ…!離れてよバカ!』
「ご飯にする?お風呂にする?それとも私にする?ってーのは新婚の王道な台詞だろ?」
『いやいや!それ奥さんからいうもんだし!ってこら!さりげなく触んないでよっ!』
一体どんな教育受けてきたんだこの人は!
っていうかそもそも私達は新婚じゃないからね!
拒否してるのにも関わらずジワジワと遠慮なく晋助の手が私の服の中に入ってきた。
そして、下着をいとも簡単に外してしまった。
『っ!きゃっ…!』
驚いてしゃがみ込んで隠せば、晋助は片手で無理矢理私の両腕を掴んだ。
「抵抗すんじゃねェよ。」
それは、すごくすごく低い声で。
思った以上に掴む力が強くて、抵抗もうまくできない。
『やっ…!』
「名前。」
不意に呼ばれた自分の名前に、ドクンと胸が疼いた。
普段名前でなんて呼ばないくせに、何でこんな時だけそうやって呼ぶのよ…!
異常なくらいにドキドキする心臓に、なぜだか泣きそうになる。
そして、いつの間にか晋助の手が私の胸へとたどり着いた。
なんで、こんな"勢い"みたいな…!
『んぁ、ひゃあっ…!や、やだってばッ…!』
「っ!」
恥ずかしいッ…!
自らから出てきた声が信じられなくて、思わず俯いた。
どうにか離れようと私がわたわたしてると、不意に晋助の方から私から手を離した。
そして焦ったように急いで乱れた私の服を直してくれた。
『……ど、どうしたの?』
真面目な顔で私を見つめる晋助。
そして、重々しく口を開いた。
「………腹、減った。」
『…………は?』
え?今のタイミングでこのセリフ?
あまりにもミスマッチで思わずポカンとしていれば、晋助が私の頬をつまんだ。
「ボケッとしてねェで早く用意しやがれ。」
それは、いつもと変わらない声で。
つまんだ手を振り払って晋助から視線をそらした。
『わ、分かってるわよ!すぐ用意するから大人しくしててよね!』
私は急いで立ち上がってキッチンに向かった。
どうしよう。
熱い、熱い。
私の心臓
おかしくなったみたいにうるさい。
狼くんの自制心
違う、違う。
こんなはずじゃないのに
「ハァ…、何やってんだよ俺。」
名前がキッチンに消えてから、大きなため息が出た。
家に名前がいるって思ったら、今日1日が妙に気分が良くて。
帰ってきてあいつの顔見たら、疲れとかいろんなモンがぶっ飛んでた。
気付けば名前に手出してて。
『んぁ、ひゃあっ…!や、やだってばッ…!』
「……随分と嫌がられてんじゃねェかよ。」
名前からのリアルな拒否に自傷気味な渇いた笑いしか出てこない。
だけどそれ以上に
気付けばあの時、無理矢理にでも押さえ付けたい衝動にかられてた。
そんな事したら今どんなことになってるか……。
……今日だけは俺の中の微かな自制心を褒めてやりたい。
この俺が、
迂闊に手が出せないほど
女に気ィ使うなんて有り得ねェのに。
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