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『…本当、何でもないから。』
何でもない、それで本当に済ませられるならばどんなに楽なんだろう。
晋助に今にも潰されそうな気持ちを悟られたくなくて、ごまかすように笑った。
「それなら、」
『ん?』
「なんでそんなに泣きそうに笑ってんだよ。」
私の姿を見つめたまま動かない晋助。
泣きそうな顔、してたのか。
そんなこと自分じゃちっとも気付かなくて。
…しょうがないじゃん、いっぱいいっぱいなんだもん。
事故とは言え、帰る場所がないんだもん。
なんて返す言葉が見付からなくて、私は俯いてしまう。
晋助はそんな私の傍のカバンを見て、一度大きなためをついた。
そして私の腕を掴んだ。
『な、なんでしょうか?』
「行くぞ。」
『は!?』
晋助にカバンを奪われて、そのままズルズルと引きずられる私の身体。
『ちょっ…!何!?』
「テメェは馬鹿か。こんな夜中に、テメェみたいなブスが一人で外にいるんじゃねェ。」
は!?
勝手に引っ張り出したあげく暴言なんてこいつは一体なんだって言うんだ。
しかも外にいたくているわけじゃないのに!
『し、しょうがないじゃない!家に帰れないんだから!』
「…帰れない?はッ、ついにあのボロアパートも崩壊したか。」
『失礼な!崩壊じゃないわよ!ただ壁が壊れただけ!だから帰れないのは工事中の今だけ………あ。』
しまった。勢い余ってつい話してしまったじゃないか。
苦虫をかみつぶした顔で晋助をみれば、私を見てニヤリと笑った。
「…やっと本当の事言ったな。」
ま、まさか。負けず嫌いな私の性格を知っててわざとあんな馬鹿にするような言い方したんじゃ…!!
『卑怯者!』
「テメェが勝手にしゃべったんだろォが。」
『っ…!』
ええ、そうですよねー。全く返す言葉が見付かりません。
はぁ、と大きく溜息をついたと同時に、晋助が立ち止まった。
それにつられるように顔をあげれば目の前には見覚えのある高級マンション。
『ここ…』
「俺ん家。」
見れば見るほどに、首が痛くなる位の立派な建物。
『…なんで?』
「来れば良いだろ。」
『え、』
「行くとこがないなら、ここをお前の"帰る場所"にすればいいだろ。」
それは、あまりにも信じられなくて。
どうしてこんな、
この人は私の欲しい言葉を簡単にくれるんだろう。
『でも…』
「でもじゃねェ、俺がいろって言ってんだからテメェは大人しくここにいりゃ良いんだよ。」
『…いい、の?』
「テメェに拒否権はねェ。」
ぶっきらぼうなのにどこか優しくて、それでいて断れないような有無を言わせない言い方をしてくれて。
『ありがとう。』
「…一人で外にいられる方が有り得ねェっつの。」
『え?なんて?』
「何でもねェ。」
『…?』
晋助が何か言ったような気がしたんだけど…。
まぁいいや、とりあえず晋助に感謝でいっぱいだ。
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