家から追い出された初日、たった数時間のバイトなんかじゃ結局行く宛てなんか見つからなくて、私は一人夜中の公園のベンチにうずくまって座っていた。


片隅には家を出て来たと同様にカバンがひとつ。


…これからどうしよう。



…今流行りのネット喫茶難民にでもなるか。


いやいやいや、生憎の給料日前でそんなお金すら持ち合わせてないし。


っていうか突然家を追い出されるなんて、万年貧乏の私にはあって良い話じゃないっての。




『…はぁ、どうすりゃいいんだ。』




…切ない。


こんな寒い日に、ましてやこんな夜中に一人で公園にたたずんでいるなんて。

お布団が恋しい。


本当だったら今頃、家に帰って寝てるはずなのに。



…こんなとき、お父さんだったら、お母さんだったらどうするんだろう。

不意に思い出したのは両親の姿。




『…きっと、笑ってるんだろうな。』


生前の二人の顔が脳裏に浮かんで、にへ、っと笑う。


両親は辛いときでもいつだって笑ってて、いつの間にか私を励ましてくれていた。

どんなに嫌なことがあっても、何事も笑って過ごしてたんだ。



『…私も、頑張らなくちゃ。』



不意に見上げた空は、綺麗に輝いていた。


それがやけに高くに見えて、手が届きそうもない事に一瞬途方に暮れそうになる。


…頑張らなくちゃ。


もう、一人なんだから。





『…がん、ばらなくちゃ…。』



意に反して吐き出した声は、今にも崩れそうで。




寂しい。


会いたい。



思い出した両親の顔に、涙が出そうになる。


何言ってんだ、私は。


今しがた頑張るって決めたのに。


我慢して堪えた涙の代わりに、キリキリと胸が痛んだ。


誰もいない公園に、真っ暗な暗闇に一人でいることが急に心ぼそくなった。



嫌だ、一人は嫌だ。


寂しい、怖い。



どこを見ても暗闇で、今にも吐き出しそうになる言葉に心が潰れそうになる。











「何やってんだ、テメェは。」



不意に、聞こえた声。


誘われるように顔をあげれば、目の前には普段見慣れないスーツ姿の晋助がいた。


仕事帰りなのか、その顔は少しだけ疲れていた。そして私の姿を見て少しだけ目を見開いていた。



『なに、してんの?』


「そりゃこっちの台詞だ。」


怪訝そうな顔で私を見る晋助。


それから逸らすように私は口を開いた。



『お、お外満喫してるとこ。』

「…こんな寒ィのに酔狂なやつだな。」

『……。』


ええ、そんなやつ実際にいたら私だってそう思いますよ。


この状況を察してくれ、頼むから。


 
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