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同じ空間にあふれかえる人混みに消えて行く名前ちゃんの背中。
それを見つめながら俺は大きく息を吐き出した。
『いつか大事な人ができたら、一生かけて愛そうって思うんです。そう思うのに、お金も地位も関係ありません。』
その言葉に、正直驚いた。
こんな女が間近にいたなんて。
今思えば、名前ちゃんは俺や高杉の周りにいる女達とは最初から違っていた。
俺が優しくしたって頬を染めて媚びをうったりしないし、高杉が強引に迫ったって決して流されたりなんかしない。
女なんてみんな同じだと思ってたのに。
思ってもないような愛の言葉囁いて、好きなときに身体重ねて、その時楽しく過ごせりゃそれでいいじゃんってやり過ごしてきた俺の考えを、名前ちゃんはあっさりと覆すんだ。
そんな汚れた俺に、なんでもないように笑いかけるんだ。
もう何でも良いやって頭ん中ドロドロに腐ってる時でさえ名前ちゃんはいつもと変わらずに俺に接するんだ。
『だから私は、そんなものに興味はないんです。』
そういって俺達が喉から手が出る程欲しがっていた言葉を、いとも簡単に吐き出すんだ。
その度に、名前ちゃんの存在がひどくうらやましくなる。
『晋助は……いないんですか?』
「なんで、高杉なんだよ…」
苦し紛れに吐き出した言葉は、周りの騒音によって掻き消された。
言えない、癒えない
俺も選択肢に入ればいいのに
なんて今更そんなこと
馬鹿みたいじゃないか