『……どうかしたんですか?』

「オンボロアパートで壁が古いせいで一部修理ができないみたい。だから壁一面を修理する大工事になっちゃっいましたーっ!」


なっちゃいましたーっ、ってそんな可愛く言われても。…もういい歳じゃないか大家さん。

って違う!そういう事じゃなくて!


『…と、言いますと?』

「つまりは、申し訳ないけど1週間くらい家あけてもらえる?って事です。」


大家さんの提案に、開いた口が塞がらない。

1週間、家に帰らず誰かの家に転がり込めって事ですか?


『…マジですか?』

「…マジなんです。」


これは、大誤算だ。

まさか追い出される展開になってしまうとは。


「まぁ1週間だしさ、親戚の家にでも行けば良いじゃない!」


『……親戚、ですか。』


心配ないとあっけらかんと笑う大家さんに、私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。












どうしよう、どうしよう。


あれから結局、バイトの時間になってしまい、そのまま私はカバン1つを持ってアパートから追い出されてしまった。


なんか急展開過ぎないか?

私なんぞの残念な頭じゃこの展開ついていけないってマジで。



「名前、眉間にシワ寄ってんぞ。」

『わっ!土方さん!』


私に声をかけた土方さんがトントンと自らの額を指していた。


「なんかあった?なんかあれは遠慮なく言えよ。名前は……家族みたいなもんなんだから。」


そう言って土方さんは私の頭をポンポンと撫でた。

家族、か。

うん。今の撫でてくれた土方さんはまさに、父親のようだ。


『お、お父さんっ!』

「誰がお父さんだコラ。」

土方さんはおもいっきり嫌そうな顔をして私を見た。

そうか、さすがにお父さんポジションは嫌なのか。


「で、どうした?」

『…いやー、実はお隣りさんの夫婦喧嘩のとばっちりで我が家の壁に穴があいてしまいまして。』

「……名前って本当、運がないよな。」

『はは…。』


自分でもまさにそう思ってたところです。

せっかく晋助と仲直りもして、これからまた頑張って働くぞって時だったのに。

「でも、大丈夫なのか?」

『あ、全然大丈夫ですよ!1週間工事するだけですから。』

「そっか、なら良いんだけど。」


…言えない。

1週間家に帰れないこと、ましては行く宛てがないだなんて。


『あ、人増えてきたんでホールまわってきますね!』

これ以上突っ込まれるのがこわいからとりあえずこの場から逃げよう。


気をつけろよ、と言う土方さんに笑って背中を向けた。



現状を口に出せば出すほど、現実味をおびて不安が襲い掛かって来る。


心配かけたくないと誰にも頼れなくて、情けないと誰にも頼りたくなくて。


大家さんが提案した"親戚"に当たる人達とは両親がいなくなってからは疎遠になっている。


「名前ちゃーん!」


あんな人達に頼るくらいなら、外で暮らした方がマシ。


「あれ?シカトですか?」

今更会いに行くなんて、死んでも嫌だ。


「名前ちゃん、銀さんをシカトするとちゅーしちゃいますよー。」


『ぎゃ!な、何するんですか銀時さん!』


脳内トリップしていた私の目の前にいたのは、私の肩をガッチリと掴んだ銀時さんだった。


 
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