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一難去ってまた一難
こんな言葉を考えたのは誰なのか
私に当てはまりすぎて発狂しそうだ。
私の家のお隣りの夫婦が、凄まじい喧嘩をしている。
うるさい、非常にうるさすぎる。
普段は穏便で仲の良い夫婦なだけあって、喧嘩になると勢いがすごい。
そしてこんなオンボロアパートの壁なんて厚い訳もなく、喧嘩の内容が丸聞こえだったりする。
"旦那さんのオナラが臭い"とか"奥さんのいびきがうるさい"とか。
小さい、喧嘩の内容が小さすぎる。
今更そんなこといいじゃないか、人間の生理現象なんだから。
夫婦ならそこまで愛してくださいよ頼むから。
なんて私のなげきがお隣りの夫婦に届く訳もなく、喧嘩は更にヒートアップしていく。
そして物の投げ合いでもしてるのか壁にガツガツと何かがぶつかる音が聞こえる。
だ、大丈夫かなお隣りさん…。
そして、いい加減止めないとまずいだろうと立ち上がった。
その瞬間、
ズガーンッ!!!
『っ!!!』
ものすごい音と共に、壁に大きな穴があいた。
そして何かが私の部屋に吹っ飛んで来た。
「お、おじゃまします。」
『い、いらっしゃいませ。』
そこには、お隣りの旦那さんがいました。
す、凄まじい力じゃないか奥さん。
あまりの驚きに、お互いにこの状況ではあるまじき挨拶を交わした私達。
こんな事があったのが数時間前の事。
そして今、私の目の前には大家さんと隣の夫婦の姿。そしてその後ろには大家さんの連絡で駆け付けた修理屋さんがいる。
「いい歳して人様に迷惑かけるなんて何考えてるんですか!!喧嘩なんてみっともない!!」
「…ごめんなさい。」
『まぁまぁ、誰にも怪我がなかったんだから良いじゃないですか!…ね?』
夫婦をものすごい勢いで怒る大家さんに、泣きそうに反省してるお隣りさん。
そして私はそれを必死に仲裁している。
……1番の被害者は自分なのに何やってるんだ私は。
「本当に、名前ちゃんごめんなさい。」
「くだらないことで、熱くなってしまった。深く反省しているよ。」
目の前には深々と頭を下げるお隣りさんお二人の姿。
……くだらないって自分で気付いてたのか。
本当、普段はいい夫婦なんだよなぁ。大家さんだって今はこんなに怒ってるけど、いつもはすごく優しい人だし。
『いえ、被害は壁だけなので私は大丈夫ですよ。……これからはオナラもいびきも愛してあげてくださいね。』
苦笑いでお隣りさんに言えば、気まずそうにお互いの顔を見合わせていた。
「名前ちゃん。」
『はい、』
「修理の事なんだけど…」
修理屋さんと話していた大家さんに声をかけられて振り返れば、困ったような大家さんの顔。
……なんだか物凄く嫌な予感がするのですが。
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