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『ど、どーも。』
まさか、出るとは思わなくて。
晋助は私の存在に少しだけ目を見開いて驚いた後、不機嫌そうに口を開いた。
「何の用だ。」
何の用だって言われても…。
久しぶりに会ったのにそんな冷たい言い方しなくたっていいじゃん。
『桂さんが、あんたを心配してたから…』
だから様子を見に来ただけ、そう言えば良いのに晋助の顔を見たら私は何故か口を閉ざしてしまった。
「…それだけ、か?」
『…う、ん。』
それだけって言われれば、目的はそれだけなんだけど。
むしろ、それ以外に何があるって言うんだ。
「帰れ。」
『…え?』
「それだけならもう帰れ。」
『……。』
晋助の言葉にピシリと固まる。
私に向かう冷たい目が見れなくて、俯いてしまう。
……あぁ、やっぱり突き放されてしまった。
私には、無理だったんだ。
先程までバクバクとしていた心臓は、ズキズキと痛んでいた。
『……ん、分かった。急に来てごめん。じゃあ、ね…。』
帰ろう。このままねばってもきっと今の私じゃうまく話せない。
こんな気持ち悟られないようにへたくそに笑って晋助に背を向けた。
ガシッ
『っ!』
歩き出そうとすれば突然衝撃がきて、後方によろける。
振り返れば、晋助が私の腕を掴んでいた。
「やっぱ帰んな。」
『晋助…。』
なんでかな、
引き止めてくれたことに凄く安心してる。
久しぶりに入った晋助の家は、相変わらず綺麗だった。
荒れてるって言うもんだからもっと散らかってるのをイメージしてたんだけど…。
何と言うか、何もないって感じで生活感がまるでない。
もしかして家に帰ってなかったのかな…。
「なんで、」
『え?』
「なんで来たんだよ。放っておく選択肢もあったはずだ。」
晋助の言葉に自分を思い返してみる。
確かに、断ることだってできたんだ。
だけどあの時はそんなこと思いもしなくて。
『私に、来てほしくなかった?』
…逆に私なんかに来てほしい訳ないか。
本当は、この役目は彼女さんがするはずだもんね。
「別に。」
『…え、あ…そう。』
晋助の予想外の返答に少しだけたじろいでしまう。
晋助だったらズバッと来てほしくなかったって言うと思ったのに。
…なんで来た、かぁ。
ただ頭の中で、"放っておいたら後悔する"って浮かんだんだ。
晋助とこのまま会わなくなって、いつの間にか本当に他人になっていって。
世の中には喧嘩別れなんてたくさんあるんだろうけど、そんなことになったらきっと私は一生晋助を気になり続けて"どうしてちゃんと話さなかったのかな"って思い悩むんだ。
晋助に何とも思われてなくたっていい。
ただ、嫌悪感をいだいたまま離れてしまう事が苦痛だと思った。
どうせ離れてしまうならば、最後の言葉くらい言いたかったのかもしれない。
こんなのただの自己満足に過ぎないけど。
様子を見てきてほしい、なんて桂さんのお願いは私にとってはキッカケだったのかもしれない。
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