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『はぁ、やっとついた。』
私の目の前には、見覚えのあるセキュリティー万全の扉。
言わずもがな私は今、晋助の部屋の前にいる。
前回拉致状態で来たために、晋助の家までの道程を全く覚えていない私に桂さんが渡してくれたのは手書きの地図。
だけどどうにも見づらくて。
っていうかこのゴールの印のオバQみたいなのは何なんだろう…
み、見たことないけど流行ってんのかな。
そして気を取り直してもう一度、目の前の扉を見上げて大きく深呼吸をした。
バクバクとうるさい心臓を抑えつけたってちっともおさまりやしない。
緊張、してる。
目の前のインターホンを押して晋助に会うだけなのに。
『……。』
別に、少し様子を見るだけなのになんでこんなに躊躇っちゃうんだろう。
『……。』
…でえぇぇいっ!迷っててもしょうがない!らしくないぞ私!頑張れ私!
ピンポーン
勢いのままインターホンを押せば、機械音が耳に残る。
お、押してしまった。
もう後戻りは出来ないんだ。
そう思ったら更に心臓はうるさくなった気がした。
『……。』
……。
あ、れ?出ないんですけど。
…っていうか、深夜のクラブに頻繁に出入りする夜型(かもしれない)人間の家に昼間行ったって出ない確率の方が高いに決まってますよね。
そうだよね、私だって本当はこの時間寝てるはずだもん。
…そもそも、荒れていると言われる晋助は大人しく家にいるんだろうか…。
い、今更だけどこのパターン考えてなかったわ。
『……。』
…あと1回。
あと1回、押して出なかったら潔く帰ろう。
そして心の準備をやり直して改めて出直してこよう。うん、それがいい。
っていうか今の時点でもう緊張しすぎて口から何か出てきそうだ。
ピンポーン
震える指先でもう一度インターホンを押した。
いや、違うんだよ、桂さんに頼まれたから来たんだよ。
だから晋助に会う為だけに緊張する必要なんてないんだって。
むしろ顔見て"睡眠時間削ってわざわざ様子見に来たんだコノヤロー!"って文句の1つくらい言ってやるべきなんだって!
だから大丈夫大丈夫、と呪文のように唱えるけれど、心臓がバクバクとうるさいままってことはあまり効果がないようだ。
『……。』
っていうか晋助出ないじゃん。
…出直すか。
ガチャ
踵を返して帰ろうとしたとき、不意に聞こえた扉の開く音。
そして振り返れば
晋助がいた。
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