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「ごめんなさいね、ちょっと目離すと誰にでも口説き始めちゃうから。本気にしないでね。」
『はぁ、』
私が晋助の言葉を本気にしているとでも思ってるのだろうか。
自分に反抗してきた私が珍しくてちょっかい出してるのなんて、誰が見たって最初から明快なのに。
『本気にするもなにも、晋助と私はそんな関係じゃないですから。』
それを証拠に私は、彼女の様に一度も晋助と身体を重ねていない。
まぁ、危ないことは何度かあったけど。
っていうかそれ以前に、晋助は私に手を出す程女に困ってないはずだよ。
なんて言った私の言葉に彼女は少しだけ目を見開いて驚いた様子を見せた。
だけど、すぐに普段通りの様子に戻った。
「そ、そうだよね。じゃなきゃ私の事あんなに愛してくれるわけないかーっ。」
彼女の言葉に、グラスを洗う手がピクリと固まった。
…愛してくれる、ねぇ。
やっぱりいたんじゃない、ちゃんとした彼女。
…別に、晋助の口から彼女がいないなんて聞いたことないし、そんなこと興味もなかったけども。
なんでだろう
分かってたはずなのに
少しだけ胸が苦しかった。
「牽制、か?」
ふと会話を遮るように聞こえた声。
顔を上げれば、いつぞやに晋助と銀時さんから助けてくれた長髪のお兄さんの姿。
そんなお兄さんの言葉が気に入らないのか、私の目の前の彼女はお兄さんを怯みながら睨んでいた。
「すまないが、彼女に話があるのでどいてくれないだろうか?」
それと同時に私とカチリと交じり合うお兄さんの瞳。
『わ、私に話ですか?』
「うむ。」
一度しか関わったことのない、しかも言葉を交わしたことのない人が、一体私に何の用があるって言うんだ。
「…じゃあ、またね。名前チャン。」
とその声の方を見れば、私の思考から完全にフェードアウトしていた彼女が手を振っていた。
またね、だなんてできればもうお会いしたくない。
だけどそんなこと言う訳にもいかないからぎこちない苦笑いで頷けば、彼女は黒い笑顔で消えて行った。
結局、彼女は一体私に何を言いたかったのだろう。
あれ?っていうかなんで私の名前知ってんだ?
あ、そういえば私あの人の名前知らないや。
そして私は、目の前のお兄さんに顔を向けた。
お兄さんは彼女の背中を見ながら大きくため息をついて、真剣な顔で私に向き直った。
なんだか、お兄さんの話の方は重大な気がする。
私の知らない君
聞きたくなかった
そう思ったのはきっと気のせいだから
※牽制→相手を威圧することによって行動を抑制すること。
つまり女の人は主人公ちゃんに"私がいるんだからこれ以上高杉さんに近寄らないで"って言いたかっただけです^▽^