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『お疲れ様でした!』
更衣室から出てカウンターの土方さんに声をかける。
土方さんは早番の私と違って今日は遅番だったのでラストまで。
「おォ、疲れてるみたいだからゆっくり休めよ。」
優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
なんて優しいんだ土方さん!!
『ありがとうございます!それじゃあお先に失礼します!』
ヒラヒラと手を振る土方さんに背を向けて歩き出せば、向かったのは従業員専用出口。
少し思い扉を押して外に出れば、空は暗くて静かな空気だった。
うん、やっぱり私は静かな方が好きだな。
「名前ちゃーん!!」
家に向かって歩き出せば、遠くからは聞き覚えのある声。
いや、予想はしてたんだよ、うん。
声の方を見れば大きく手を振る坂田さんと、その横を歩く晋助の姿。
「ちょっと!名前ちゃんの銀さんがここにいますよ!!」
「お前、本当うるせェ。」
私を見つけてまるで犬みたいに喜ぶ坂田さんと、その横で煩そうに耳を塞ぐ晋助達ががなんだか微笑ましくて少しだけ笑ってしまった。
仕方ないから、一緒に帰るぐらいなら良いかな。
なんだかんだ悪い人達じゃないしね。
『ほらっ!早く追い付かないと先に帰っちゃいますよっ!』
笑って二人に大きく手を振れば、予想外の私の反応に二人は驚いていた。
そりゃそうだよね、さっきまであんなに嫌がってたんだからね。
「いやもう本当マジで今すぐそっちに行くから!!」
更に嬉しそうに喜んだ坂田さん。
本当犬みたいで可愛い人だ。
そして晋助と目が合う。
それがなんだか照れ臭くて笑ってしまった。
晋助も、私を見て優しく笑った。
私と二人の距離は数メートル。
キキーッ!!
『きゃっ!!』
突然後ろから現れた車。
その車から出てきた数人の男の人達に担がれ車に押し込められそうになる。
『やだっ…!離してっ…!』
抵抗しようにも力が敵わない。
そして暴れる私の口元に当てられた白い布。
遠のいていく意識の中
走ってきた晋助に手を伸ばしたけれど
その手は届かなかった
伸ばした手と届かぬ手
手を伸ばせば届く距離に
君はいたはずなのに
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