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「お前、信じらんねぇ…」
そんな声が聞こえたと思って顔を上げれば、高杉晋助は私を睨んでいた。
あれ?…この人もしかして怒ってます?
いやいや、ここ私悪くないよね!?
というか出会ったばっかりなのにヤるとかって信じられないのはあんたの方だから!!
「テメェなんか、」
『は?』
「テメェなんかこっちから願い下げだボケ!」
そういうと高杉晋助はベットから降りてズカズカと部屋から出て行った。
は?
え?何この無性に込み上げて来る屈辱感。
あれ?なんで私が拒否られてるの?
むしろ拒否したのは私なんですけど…
この無駄に広い部屋にたった独りポツンと残された私。
『私だって、』
開く気配のない目の前の扉に向かって睨む。
『私だってあんたなんか望んでもないわボケェェェェエ!!!!!』
やっぱり私は高杉晋助は苦手なようです。
もう絶対あいつが戻る前に帰ってやる!
そして私はいまだに開く気配のない扉を再度見つめた。
…人がみんなあんたの言うこと聞くなんて思ったら大間違いなんだから!
バイト終わりに突然拉致ってきたあげく、こんなだだっ広い部屋に一人放置してくるなんてなんて失礼なやつなんだ!
くそぅ、毎日働いて疲れて安い布団で寝てる人がいるっていうのに、あんな奴がこんなにふかふかのベットに毎日寝てるなんて世の中不公平すぎる。
っていうかこのベットふかふか過ぎて腹立つ!
私が布団におもいっきりダイブすれば予想通りバフンッと音をたてて私の体は沈んだ。
倒れたとともに急に襲ってきた眠気。
ああ、やっぱり連勤はきつかったなぁ。
あんまり寝てなかったし。
まぶたが重くなってたと思ったら今度は動くのが物凄く億劫になってきた。
あー、こんなとこ、すぐに出て早く家に帰らないとダメ、なの、に…
まぶたを閉じた私はいつの間にか深い眠りに落ちていた。
眠り姫と君の傍
不器用な僕たちは
変わっていく未来に
大きく揺れる
ガチャ
「おい、…って何だこいつ。」
扉を開ければ目の前のベットにはスヤスヤと眠っている名前の姿。
近付けばすーっと小さな寝息をたてて眠るそいつは俺が入ってきたことにも気付かない。
…わざわざ俺ん家まで連れて来てやったのに誘ってこねェ女なんてテメェしかいねェよ。
いつかテメェがヤりたいって喚いても絶対ェやってやんねぇ!!
コトン、と音をたてて傍のサイドテーブルに置いたコップの中身にはまだ少しだけ熱いココアが入ってる。
…せっかくいれたのに冷めるじゃねェか。
お前が疲れてそうだったからわざわざこの俺が用意してやったっつーのに。
「おい、」
手を伸ばして触れた髪は頬をつたって流れるように落ちた。
「小動物みてェ…」
触れたことにも気付かない名前は、小さく丸くなって眠る。
「ククッ、…バーカ。」
チュッ
幸せそうに眠るそいつに優しく重ねた唇。
傍に座って名前の手を握れば伝わってきたのは安心するような温もりだった。
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