何もかも全てが、壊れてしまえばいいと思えた。


俺から逃げようとする名前も、こんな形でしか名前を繋ぎ止められない俺も。


全部、なくなってしまえばいい。



嫌がる名前を押さえつけて、首筋に1つ赤い跡をつける。


それに触れてみるけど、指先は冷たいまま。



「……。」


この赤い跡は名前が自分のモンだと示せる証なのに、俺の胸の中は少しも報われない。


いくら跡をつけても、いくら近くにいても、何も変わらない。


そうやってもがけばもがく程に悪循環で、暖かかった名前の温もりは意とも簡単にこの手をすり抜けていく。


無理矢理押さえつけるこんな俺を見て名前は、笑わない。



一体、何だってんだ。


いなくなったと思えば、突然"もう会わない方がいい"なんて。


もう壊れてしまえばいい。何もかも、すべて。



ギチリと握り締めた拳に、どうしようもない程に胸が痛かった。






『晋、助…。』


不意に震えた声で名前を呼ばれ、目の前の今にも崩れてしまいそうな名前の姿。


それを見たら頭が少し覚めた気がした。


何、やってんだ……俺は。



ハッとして名前を押さえつける力が緩んだ。


表裏なしに笑ったのも

ありがとうと泣いてくれたのも

俺に面と向かって最低だと怒ったのも


なくしたくないと、思ったのも




全部、名前が初めてだったのに。



「名前」


『っ、』


頬に触れて、名前をまっすぐに見た。




「……泣くな、頼むから、泣くな。」



目の前には、涙を流した名前の姿。


両頬を優しく包んでも、ポロポロと流れた涙は一向に止まる気配を見せない。



思い返せば名前のこんな顔、何度も見た。



………あぁ、そうか。


全部、俺のせいだ。



頭の中に甦るのは、俺が泣かせた記憶ばかり。


いつだって俺の我が儘で名前を振り回して、辛い思いをさせた。


大切にしたいのに、こうして困らせて傷つけてばかりで。



「名前、……名前。」


頼むから、泣くな。


お前のそんな顔、見たくねェんだよ。


言葉に出来ない想いに胸が苦しい。


本当は、こうして強く抱き締める事もきっと、こんな俺には許されない。


お前に嫌われてる事も、全て分かってる。


お前の側にいられるような人間じゃないなんて、最初から分かってっから。


だから、


「…俺と離れた方が、きっと……お前は幸せになんだろ…。」


分かってる。


ちゃんと理解できてる。



『晋す、』


「けど、お前を手放す気なんて俺は絶対にねェからな…!」


もう一度、名前をきつく抱き締める。


名前は、名前だけはどうしても駄目なんだ。


 
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