『晋助、離して。』


こうして私が晋助に手を引かれる事自体が、間違ってる。


そう思ってるのに、晋助は掴んだ手を離してくれない。



「お前、…何があった?」


『……。』


真っ直ぐな視線が見れなくてうつむけば、捕まれたままの腕が見える。


何があった、なんて。


……私にだって、分かんないよ。


ただ1つ分かるのは、このまま晋助といたら彼女が悲しむって事。



晋助の大切な人を、私が傷付けるって事。



『…晋助はさ、間違えてるんだよ。』


「何がだよ。」


『今手を引くべきなのは、私じゃないでしょ?晋助は優先順位を間違えてる。』


「俺は、何一つ間違えちゃいねェ…!」


ギチリと更に強く捕まれた腕。


真っ直ぐだった瞳は、今は私を睨むようで。


なんで、そんな目で見るのよ。


私だって、こんなこと言いたくないのに。



『…もう、辞めようよ。』


「は?」


『近すぎたんだよ、私たち。』



晋助は、初対面で反抗した私が物珍しかっただけ。


あのとき泣いてしまいそうだった私の手を引いたのも、深い意味はないんだよ。


だから、いくら家がなくて困っていたとはいえ、晋助に頼ってしまったのは間違いだった。


私の軽率な行動としか思えない。


『私と晋助は、店員と、客でしょ?』


だから、この手を離さなくちゃいけない。


いつまでも私という存在のせいで晋助に迷惑はかけられない。

私が、こうして去り際を決めるべきなんだ。


『もう、こうやって会うのやめよう。お世話になっておきながら勝手なこと言って、ごめんね。……さよなら、しよう。』


ゆっくりと、捕まれていた腕を離す。



晋助は、なにも言わない。






『ばいばい、晋助。』






今にも泣いてしまいそうなのは、きっと晋助の事を大事に想っているから。


出会った頃の嫌いだった気持ちなんて、今はどこにもない。


ただただ、晋助に幸せになって欲しいから選んだ最善の選択。


困ったように笑って私は晋助に背を向けた。










「勝手なこと、言ってんじゃねぇ…!!」


『っ!』



そう聞こえたと同時に、再び捕まれた腕。


今度はあまりにも強い力で指先が腕に食い込む。


振り替り返る待もなく私は晋助に強い力で引きずられていく。


 
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