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真っ暗な空に、少しだけ肌寒い気温。
重い足取りで私がたどり着いたのは、家を追い出された初日にいた公園。
誰もいないベンチに腰掛け、一つ大きなため息をついた。
『そうだったよね、…彼女、いたんだった。』
自分がいっぱいいっぱいだった為か、そんな大事なことをすっかり忘れていた。
……そりゃあ、嫌に決まってるよね。
困っていたとはいえ、疑ってる女が彼と一緒にいるなんて。
よく考えれば分かることなのに、なんで私はこんな大事なことを忘れていたんだろう。
"高杉さんに近づかないで"
そういった彼女の震えた声が今でも頭から離れない。
彼女が泣いたのは、私のせい。
きっと私は、晋助から離れなくちゃいけない。
とはいえ、世話になったと言うのにろくに挨拶もせずに飛び出すなんて非常識もいいところだ。
今度、きちんとお礼をしなくちゃ。
…でも、彼女にとってはそれすらも嫌になるんだろう。
お礼がしたい、でも近づけない。
謝りたい、でも声をかけることはもうできない。
どうしたらいい?
どうしたら、誰も傷付かずに穏便に事が済むの?
『……もう、頭の中ぐちゃぐちゃ…。』
静まり返る公園で呟いた声は、今にも消えそうで。
見上げた空は、星1つなくてくすんでいた。
なんで私は、今にも泣いてしまいそうなんだろう。
「何やってんだ、テメェは。」
不意に聞こえた声に、顔をあげれば、そこには晋助の姿。
まるで初日と同じ登場の仕方で、晋助が手を伸ばしてくれたシーンを思い返すようで、なぜだか少しだけ胸が痛い。
ただ違うのは、呼吸を整えるように晋助が肩で息をしていること。
『なんで、ここにいるの?』
無意識に口をついたのは、今まさに思っている事で。
彼女と、一緒にいるんじゃないの?
「テメェ、何だよあの手紙。」
『…。』
「訳わかんねェ事言ってんじゃねェよ。」
険しい顔で近付いてくる晋助の姿に自身の体が強張る。
「帰るぞ。」
そう言って掴まれた腕が、痛い。
なんで晋助がここにいるの?
……晋助がここにいるって事は彼女は1人になってまた泣いてるんじゃないの?
そう考えたら、このまま晋助に手を引かれるなんて私には絶対に無理。
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