ありがとうございます






なまえが万事屋に来てから数日。


なまえについてもそれなりに理解してきた。


人一倍昼寝が好きだったり、ひなたぼっこが好きだったり、野良猫と仲良くなるのがうまかったり。



そしてなまえが大嫌いなのが今まさにこの瞬間。


俺にとっては最大級の難関。





「こらっ!逃げんじゃねぇッ!」


『銀ちゃ!それいや!』


「だぁーっ!!大人しくしろッ!」




なまえの腹の傷の手当て。


痛いのが嫌なのか、俺が包帯を手にした途端に物凄い早さで逃げようとする。



「ほら、残念でしたー。」


『にゃー…。』



やっとの思いでなまえを捕まえれば、なまえは悲しそうに俯いた。


うぅ…そんな顔すんじゃねェよ。


俺の良心がズキズキと痛むが、治療の為には仕方あるまい。


心を鬼にしてなまえに手当てを始める。



なまえの腹の傷は思った以上に深く、数日たった今でさえ痛々しく残っている。


こりゃあ、完治までにはまだまだかかりそうだなァ…。




そしてなまえについてもう一つ分かったのが、体の性質。



「耳出てんぞ、耳。」


『にゃー…。』



まさにこれ。この数日で気付いたんだがなまえは完全に"人型"ではないみたいだ。


体調不良だったり、怖がったり不安だったりすると耳と尻尾が現れて、いわば"半人型"。


ここは俺の予想だが、最初の出会いからすると究極に弱ると猫になっちまう、って事なんだろうなァ。


そして今が"半人型"。


耳と尻尾を出して怯えるように俺を見つめる。


…だからそんな顔すんじゃねぇって!



まぁ、天人が入り乱れたこの時代じゃあこの姿でも大してそこまでの不安要素はない。


しいて言うならば猫耳ブームに侵されたオタク共が連れ去ってしまわないかっていうことぐらいかな。




「おら、完了。」


『っ!』



なまえは俺の言葉を聞いてパァッと顔を輝かせる。



『銀ちゃ!』


「ん?」


『えっ、と……うーん…』

「どした?」


一生懸命に何かを考えて首を傾げるなまえ。


『……こんなとき、なんて言う?』


「こんなとき?」


『なにかをしてもらったり、嬉しくなったとき、に?』


「…あァ、ありがとう、だな。」



なんだ、そういう事ね。

なまえは"ありがとう"を知らねェのか。



『…ありがとう?』


「おう、誰かに助けてもらったり、有り難ェ事してもらったら、ありがとう。」

『…ありがとう。』


「で、自分が悪いときや誰かに申し訳ねぇって思った時は、ごめんなさい。」


『…ごめんなさい。』



頭に叩き込もうと必至に頷くなまえ。


…改めて言葉の意味を人に教える日がくるなんて予想もしてなかったわ。


俺、先生?いや、つーか手当てしたり着替えさせたりしちゃってる時点で父親ポジションだよな完全に。



『銀ちゃ!ありがとう!』


「…おう、どういたしまして。」






うん、こんな可愛い娘も悪くない。







たくさんの、ありがとう





 



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -