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「名前ちゃん、なんか顔色悪くねぇ?」
目の前の銀時さんの言葉に、一瞬たじろいだ。
事の始まりは今日の朝の事。
何時もよりも目覚めの悪い朝に、ふらふらする体を起こしてまさかと思い体温を測れば案の定高い熱の数字。
あぁ、マジでか……。
なんて考えながらも布団から出て何時ものように仕事の支度を始める。
社会人として急に仕事を休むなんてできるはずもなく、地を這う思いで家を出た。
別に死ぬほどきついわけじゃないし、今日くらい大丈夫。
なんて、思ったのが大間違いだった。
『…え?そうですか?私はいつもと変わりないですよ?』
銀時さんに誤魔化すようにいってみるけど実際はものすごくしんどかったりする。
夜になるにつれて高くなる体温にガンガンに痛む頭。
出来ることなら今すぐ横になりたいくらいだ。
「えー、何時もよりも辛そうだって。」
『いやいや、変わりませんって。』
「もしかして名前ちゃん、あの日なの?」
『違いますから。っていうかそんなこと軽々しく聞かないでください!私は元気です!』
折れない私をジトッと見てくる銀時さん。
そしてカウンター越しにグイッと近付いてきて私に手を伸ばす。
「へぇ、なら、おでこ貸してみ?」
『嫌です。辞めてください触らないでくださいセクハラです。』
手を伸ばした銀時さんから一歩下がり同じようにジトッと銀時さんの顔を見た。
心配してくれているのにこんな事言うの失礼過ぎるけれど、今日だけは触られる訳にはいかない。
出来ることならば体調不良など誰にもバレたくない。というか必要以上に心配をかけたくない。
『ほら、これでも飲んであっち行ってください。』
手早く作った銀時さんお気に入りのカクテルをカウンターに出し、まだかまだかと銀時さんを待ち続けている向こうのお姉さま方を見た。
『みなさん、銀時さんを待ってますよ?』
「いいのいいの、俺名前ちゃんといるほうが楽しいし。」
『まぁーたそんなこと言って。レディを待たせるなんて男としてまだまだですよ。』
「……はいはい、分かりましたよー。まぁ、何かあったら銀さんが付きっきりで熱ぅーい看病してやっからさ。」
『……そうですね、その時はお願いします。』
本当、銀時さんは調子良いんだから。
面倒くさいので感情皆無の棒読みな上に呆れ顔で返せば銀時さんは観念したようにカクテルを手にして私に背中を向けた。
やっと行ってくれるか…。
熱があることをなんとかバレずに済んだと小さくため息をついて洗い物に手を伸ばせば、銀時さんは振り返った。
「名前ちゃん。」
『はい?』
「俺、女の泣いてる顔とか苦しんでる顔好きなんだわ。」
『…は?』
「だからさ、今の名前ちゃん見てると、すっげぇ興奮する。」
銀時さんは満足気にニヤリと笑ってそう言うと、私の前から去っていった。
…………。
この時、物凄い鳥肌が私の身体を覆ったのは明らかに熱が原因じゃない。
……銀時さん怖っ!!!!
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