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『お腹空きすぎて死にそう。あ、でも給料前で食料が無いんだった。』
今日も無事に仕事が終わり、独り言をつぶやきつつ裏口からひっそりと外に出た。
本当は休みだったんだけど今日に限って遅刻だの間に合わないなどで、早い時間は人が少ないからってヘルプ依頼の電話があったのは今日のお昼の話。
次第に従業員も集まってきて、手も回りそうだったので今日は上がることにした。
帰るにはいつもよりも大分早い時間。
少しだけ肌寒い夜に、早く帰って休日を再開しようと足を早めた。
『あれ?何、してんの?』
「別に、」
1、2歩進めた私の目の前には、晋助がいた。
そういえば、珍しく今日はVIPにいなかったな。
銀時さんはいつも通りガバガバとお酒を飲んでは絡んできたけど。
『これから行くの?』
「…銀時に呼ばれたから仕方なく。」
知らなかった、晋助がこんな付き合いのいいやつだったなんて。
ふぅん、なんて興味なさそうに首を傾げれば、晋助が不自然に視線を逸らす。
「別に、お前がいるって聞いたから来た訳じゃねェし。つーか、今日休みじゃねぇのかよ。」
誰もそんなこと聞いてないけども。
っていうか私の為に来たなんて思う訳無いでしょうが。私は自意識過剰ってか?
つーかなんで私のシフトを知ってるんだこいつは。
『今日休みだったんだけど人が足らなくて少しだけヘルプ。』
「へェ、」
『って言ってももう帰るんだけどね。』
「なっ…!?」
『なによ、この格好見ればわかるでしょ。』
平然とする私を余所に驚く晋助。
いつもの仕事服ではなく私服を着てるんだからそれくらいわかるでしょうに。
何故、そんなに驚く?
「か、帰んのか?」
『だから帰るって。まぁ、晋助も飲み過ぎないようにねー。じゃあねー。』
外に突っ立ってるのも寒くなってきたので、そろそろ帰ろう。
そのまま晋助の横を通って帰ろうとした瞬間、私の腕は晋助に捕まれていた。
『ど、どうしたの?』
「帰る。」
『は?』
「俺も帰ってやる。」
突然何を言い出すかと思いきや。
別に帰ってほしいなんて頼んでないけども。っていうかなんでそんなに偉そうなんだ。
っていうか、
『…銀時さんに誘われたんでしょ?帰ったらダメじゃん。』
いくらなんでも約束はすっぽかしちゃいかんでしょ。
「腹減った。」
『あれ?私の話聞いてる?』
「今日忙しくて食う暇なかったんだよ。」
全く噛み合わない話にため息しか出てこない。
本当、勝手というか自由というか。
『…ちゃんとご飯食べろって何回言えば分かんのよ。』
「お前何食いてェ?」
『は?なんで私の食べたいもの?』
「俺は一人で飯食わねェ。」
………つまりは、私も一緒に食べろと言うことか。
いや、正直言えば私もお腹ペコペコだけれども。
っていうかもしかして、さっきの独り言が聞こえたんだろうか。
じゃないとタイミングが良すぎる。
『…ありがと。』
「別に、お前の為じゃねェ。」
このあと、高級料理をお腹いっぱいになるまで食べさせてもらいました。餌付けされました。
極貧な私としては、晋助が神様の様に見えました。
うん、晋助は日頃ムカつくけど、たまにはいい人。
※ちなみに、銀さんは「今日名前ちゃん出勤してたよー」って報告しただけで別に誘ってません。
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