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"疲れたときは糖分"
なんてどこぞのクソ天パ野郎が言っていた。
それに合わせてあいつも同意のように頷くモンだから、俺は何も言わずに黙っていた。
『おかえりなさい!今日もご苦労さま!』
今日も仕事が終わり家に帰れば、俺を迎えたのは名前の姿。
俺が毎日真っ直ぐに家に帰るようになったのは最近の話。
俺は冷蔵庫に近付いて、取り出したミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
『あ、言ってくれたらとったのに。自分で取るなんて珍しいじゃん。』
確かに、料理もしないし、ましてや最近じゃ名前を使いまくってる俺が自ら冷蔵庫に近付くなんて滅多にないことなんだが。
「いいんだよ、今日は。」
『そんなに喉かわいてたの?』
「………別に。」
いつものように名前は俺から上着を預かり、慣れた手つきでかけている。
仕事柄、時間がいつも不定期なこいつは家にいる時間の方が少ない。
それは睡眠時間が少ないことも当たり前で。
『晋助って本当毎日頑張ってるよねぇ。』
なんて呑気に言ってるが、実際頑張っているのはこいつの方だと俺は思う。
俺の事を変態だの最低だの言うくせに、こいつは律儀にも家事もするし、仕事から帰ってきた俺をこうして出迎えることを忘れたりなんかしない。
仕事で疲れているはずなのに、愚痴なんて一切こぼしたりしねェ。
俺の目の前にある小さな背中は、抱えきれない程の荷物をいつだって1人で抱えて生きている。
『何!?急にどうしたの!?』
こうして後ろから抱き締める身体も、本当は限界なんだろうか?
「……。」
『ちょっ…!重い重い!おーもーいー!』
じわじわと前に体重をかけていけば、重さに耐えきれないのか名前は段々と沈んでいく。
「まいったか?」
『はぁ!?』
「やめてくださいってお願いしたら止めてやるよ。」
『……いやいや!晋助なんかに負けませんから!』
こうして負けず嫌いなところも、こいつが無理をしてしまう原因の1つでもあるんだろう。
『いだっ!ぎゃ!重い!死ぬ!いやこれ絶対潰れるからぁぁああ!』
結局、この勝負は名前が潰れて俺の勝ちで一瞬にして終わったんだが。
『あぁ悔しい!』
支えきれなかった事が悔しかったのか、名前はジタバタしながら俺を睨む。
当たり前だろ、男と女なんだから。
いや、そんな睨んでも怖くねェし。
むしろ……………いや、何でもねェ。
「下んねェ事でいちいち怒ってんじゃねェよ。」
『そもそもこんな体重かけるなんて下らないことしないでくださいー。』
「あ?」
『……なんでもないです。』
なにが何でもないだよ、まるっきり"悔しい"って顔に書いてあんじゃねェか。
本当、こいつは正直で馬鹿だ。
『何、笑ってんのよ。』
「別に。ただ馬鹿な奴だと思って。」
『なっ…!私は馬鹿じゃないっつーの!』
「誰もテメェなんて一言も言ってねェけど。何?お前馬鹿なの?それはまた可哀想に。」
『……もう私落ち込むわ。立ち直れない…!』
だからこそこいつは、傍にいても飽きねェ。
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