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『悲しいの?』
「…うん。すげぇ苦しい。」
『…じゃあさ、あたしが慰めてあげよっか?』
「……うん。」
そういって傷付いた銀時を、利用した。
本当に最低なあたし。
先日、銀時は付き合っていた彼女に振られた。
あたしの前に現れた銀時は、それはもう憔悴しきっていて見ていられないくらいだった。
苦しんで、苦しんで
今までに見たことのない顔だった。
こんな顔をさせる彼女が許せなかった。
だけどあたしはこんな銀時を見て心の奥で喜んでいた。
銀時が好きだったから。
大好きでどうしようもなくて。
だから"慰める"なんて言い訳を使って、銀時に付け込んだんだ。
『んあっ…、ふぅっ…!銀時っ…』
「っ…?」
『あたしがっ…、傍にいるからっ…!』
「…あり、がとっ…!」
銀時はあたしに向かって少しだけ笑ってくれた。
彼女の代わりでも良かった。
それだけであたしは嬉しかったんだ。
そしてこの日を堺に、あたしと銀時の関係が始まったんだ。
みんなに心配をかけたくないからと、完全にふっきれるまでは彼女と別れたことを内緒にすると銀時は言った。
私としても心配されて彼女を思い出して忘れられないよりは、みんなに言わないで吹っ切れてくれるならばと、何も言わない事にした。
『そんなに甘いもの食べたら病気になるよ?』
「いやいや、最近食ってなかったから大丈夫!」
『だめだめ、本当病気になっちゃう!…ってな訳で残りはあたしが食べちゃいまーす!』
「あっ!てめぇコラ!返せ!」
『うわっ!生クリーム飛んだんですけど!』
なんともくだらない事で、ファミレスであたしたちは言い争いをしていた。
あれから数ヶ月、銀時は少しずつだけど元気になってきた。
落ち込んだときはくだらないことで笑わせようとしたり、大量のいちご牛乳を家まで届けたりと、毎日のあたしの地味な努力の甲斐があってか最初の頃の憔悴しきった空気も今はなくて、笑う数も増えた。
「ね、名前。」
『ん?』
「今日も、慰めてくれる?」
そしてこれがあたしたちの合図。
銀時とはもうあれから何度も身体を重ねた。
「名前、余裕なさすぎー。」
『…銀時のせいでしょー。』
「え?俺のおかげって?」
『違うわボケ。』
行為が終わった後の、甘い空気がすごく好き。
慰めるはずの行為なのにあたしはその度に、不謹慎にも幸せだった。
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