先導者 | ナノ








「いらっしゃい」

彼女は俺をいつもそう迎えてくれる。
それは俺が客として来ているのだから挨拶するのは店員として当然のことなのだが、彼女は俺の時だけ顔を見て挨拶してくれる。…ような気がする。いつも本を読んでいて、客と目を合わせたりしないのに、と前向きに考えればの話だが。
だからそれを単なる思い込みと言われれば返す言葉などないのだが、どうにも気になって仕方ない。

俺自身ヴァンガードファイトはする。しかしカードキャピタルに来るのは大体が櫂の付き添い(といっても俺が勝手に着いていっているだけなのだが)であり、一人でも通うようになったのはつい最近である。
通うといってもファイトをするわけではない。いつも誰かの(主にアイチやカムイ達の)ファイトを観戦するだけだ。それも最初だけで、気が付けば視線は全て彼女に奪われていた。

思わず触れたくなるようなさらさらの髪、透き通った白い肌、アクアマリンのように輝く瞳、無理矢理でも奪ってやりたくなるようなふっくらとした唇。言い表し切れない魅力が彼女にはある。
俺がこうして考え続けているのを知ることのない彼女はいつもと変わらずカウンターに座って黙々と本を読んでいる。もちろん俺の気持ちに気付くはずもなく。

でも彼女はあくまで店員だ。客から会計を頼まれれば応じるし、客から質問をされればそれに答える。当然のことだ。
しかし愛想笑いとはいえ彼女が他人に笑っているのを見ると苛立つ。正直、彼女が姪だからって呼び捨てにしている店長にも苛立ったことはある。

「(俺のモノにしたいな、なんて)」

櫂にお前は独占欲が強い、と言われた理由が最近なんとなく分かった気がする。







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