アイチは俺といるとよく笑う。 でも俺としてそれはあまり嬉しいことではない。三和はいつもそう思っていた。 決してアイチが嫌いだということではない。そりゃあ、アイチの笑う顔はその辺の女と比べ物にならない(俺からしたら世界一と言ってもいい)くらい可愛いし、ずっと見ていたいと思う。男がこんなことを言うのもあれなんだが、アイチが好きだ。でもアイチが一番楽しそうに笑うのは決まって櫂の話をしているときなのだ。 今日も、やっとのことでアイチを家に招待したというのに、話すことはほとんど櫂のことばかりで。 「それでね、櫂くんがね」 少し頬を赤らめながら、嬉しそうに話すアイチ。三和はそれを見て非常に複雑な気持ちでいた。 きっと俺のことは良くてただの友人としか思っていないのだろう。話してくれるのも櫂の友人だから、って理由もあるんじゃないかと思うと悲しく、悔しい。 俺だって本当はお前が好きなのに、なんて言えるわけがない。 「本当に三和くんって、何でも話しやすいや」 「そりゃどうしてだ?」 「だって、櫂くんのこと話せるのは三和くんだけだから」 アイチは罪の意識はなくにっこりと笑っている。三和はずき、と胸が傷んだ。きっとこれは気のせいじゃない。 今の笑みは俺だけに向けられたものなのに、その理由を聞けば裏にはやっぱり「櫂」。 そこまでアイチに想われている櫂が羨ましくて、そんな櫂の手からアイチを奪いたくて、気が付けば体が勝手に動いてアイチを押し倒していた。 「み、三和くん…?」 いきなりのことで動揺しつつ少し涙を溜めた目でアイチは言う。 本当はもっと昔からこうしたいと、心の底で考えていたのかもしれない。組み敷いた途端に生まれた満足感がそう思わせる。 三和は今の状況に満足していた。 「もっと俺を見てくれ、」 アイチの瞳が揺らぐ。やっと状況を把握し抵抗するももう遅かった。 |