先導者 | ナノ






櫂視点





「櫂、くん」

今何が起こったのだろうか。
さっきまでアイチが後ろを歩いていたかと思えば、何を思ったのか急に抱きついてきて。どう反応したら良いか、わからない。

「ご、ごめんね櫂くん…急にこんなことしたりして」

くぐもったアイチの声に何も言えなくなる。
少し震えたようにも聞こえたそれはアイチが普段より弱気であることを顔を見なくともわかるものだった。しかしアイチが何を抱えているのかまでは、俺は理解することは出来ない。顔色を伺うにも、後ろから抱きつかれてる限り不可能だ。
…それよりアイチはいつからこんなに成長したのだろうか。腰に回された腕は昔のひ弱なアイチとは違い、すごく…とまでは言わないがしっかりしていて、背も高くなった。顔つきも昔より可愛く……なんて、いったい何を考えているのだ。俺は馬鹿か。

「……アイチ」

言うつもりはなかった。
気付けば勝手に名前を呼んでいた。
どくん、どくんと密着している背中から伝わるアイチの心臓の鼓動にこっちまで影響を受けてしまう。

「(アイチが可愛いだなんて、)」

思わず顔が火照る。こんな姿をアイチに見られなくてよかった。全くアイチの前では俺らしくない、と思う。
アイチの身体は小さくて、温かい。






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