なべ

 







ざむいざむい、と寒さに赤くなった鼻先を鳴らしながら黄瀬は青峰にすり寄った。綿の入った暖かそうなダウンジャケットのポケットに突っ込まれた腕を引っこ抜く。

「なにすんじゃ、ボケ」
「っいた。殴ることないじゃないスか」

暖かく大きな手のひらに冷たくて自分でもままならないほどの手をぺたりと重ねる。軋むようにぎこちなく指を曲げて、その熱を奪うかのように、同化するかのように握った。伝わってくる熱はあまりにも暖かくて熱くはないのに痛い。じんじんと指先から何かが響く。

「そろそろ、クリスマスだな」
「その前に赤司っちの誕生日っスよ」
「あー、あー…………そっか、赤司の」
「いい思い出のような、酷い思い出しかないような……」
「酷かっただろ」

学生時代に思いをはせ、苦笑いを浮かべる。もこもこと長いマフラーを幾重にも巻き付けてその中に顔の半分を埋めた黄瀬。その声は若干くぐもっていた。対して青峰は、ダウンジャケットの下は実はTシャツ1枚だったりする。家を出るときに黄瀬に「正気っスか?! 死ぬっスよ!! この野生児!!」と心配された。

「ねえ、青峰っち」
「なんだよ」
「ちゅーしたい」
「死ね」
「えー、オレ、寒い時にするキス好きなんだけど」

好きだ、と言いつつその顔は心底どうでも良さそうで、何を見るわけでもなくまっすぐに前を見ていた。ふうん、と適当に答えつつ青峰は繋いだ手を自分のポケットに入れた。ジッパーの端が乾燥した手の甲にこすれて少し痛かった。目を丸くした黄瀬が、すぐにその目を細めて笑う。つられて笑う。

「俺はあったかいキスのが好きなんだけど」
「例えば」
「え、例えば? あー、なんかあっついもん食ってるお前が、あついあついって言ってるの見てからするキス?」
「なにそれ。あ、だから、青峰っち、行儀悪いって言ってんのにメシの途中でキスすんの……」
「物理的にはそんなにあったかくないな」

うわー青峰っちの口から物理的とか出てきたーうわー、明日は雪っスね、手は使えないから軽く頭突く。首を曲げればほんの僅かに小さい黄瀬のこめかみ辺りにヒットする。痛い、と声を上げる黄瀬はまだ、雪降らないかな、と空を見上げていた。紫とオレンジとピンクと水色と途切れ途切れの雲は色とりどりに染まり、ぼんやりとした夕陽が遠くに見えた。


「今日は鍋な」





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