そのまま、小学校を卒業してしまった。中学校は地元の公立中学校ではなく、少し離れたところにある私立の中学校だった。自分から行きたいとは当然、言っていない。親の勧めだった。どういう意図があったのか分からないが、言うとおりに受験して、受かって、いかにも私立らしい制服が届いた。ちなみに初めて、制服を見た時の感想は「カレーうどん食べれないな」である。母親が「あと、三年でしょ。好きなようにしたらいいと思う。でも、本当なら家で、ずっと一緒にいたいくらいなんだよ。ずっと、ね。学校なんて行かなくていい、って言いたい。一分だって一秒だって、長く一緒にいたいの」苦笑いをした。「でも、テツヤの人生だから。こんなこと言って、ごめんね。お願いだから。我儘だって分かってるけど、何か、見つけて。この三年間、一生で楽しかったって言えることをひとつでも多く作って」泣かなかったけれど、泣きそうな顔で、言われた。言われると思った。ボクはもう、ボクのために何かをするつもりはなかった。両親のために、ボクはバスケを始める。バスケに意味はない。サッカーはできる自信はなかったし、なんだかサッカーをやっている人とは話が合うとは思えなかった。野球は坊主になりたくなかったから、却下。バレーボールは女子のイメージしかなかったから却下。水泳部は、筋骨隆々としていて恐かったので却下。空手、柔道、あの類はなんか、無理そうな雰囲気しかないので却下。文化部だと両親の期待には添えそうにないので、却下。残るのはバスケ、という消去法で決まった。タッパないけど、いけるかな。という不安もあったが、すぐにその不安は消えることになった。それ以前の問題のようだった。まさか、こんなに大きい部だとは思っていなかった。これなら、ボクがレギュラーになるなんていうキセキは起こらないし、ボクは影の薄さが最も発揮しやすい場所を得た。

 そこで、キセキの世代と呼ばれる、並はずれた実力を持つ彼等と出会った。能力と同じくらい個性的な彼等と。青峰くんに出会い。赤司くんに出会い。緑間くんに出会い。紫原くんに出会い。黄瀬くんに出会った。

 ボクは変わる。キセキも起きる。
 生きたいと思えるようになった。
 死にたくないと思えるようになった。
 現金な気がするけど、生きる意味を見つけられた。

 三年はあっという間だった。
 死ぬまでだから、死ぬほどの努力をしよう。
 死にたくはないけれど、いつ死んでも平気なように頑張ろう。
 マンガやドラマのくさい主人公のように。自分でも自分を笑った。
 こんな前向きになるのか。
 キセキの世代との出会いがボクにとってのキセキ、ってか。面白くもない洒落だけど。ボクの人生を変えた出会いだから、やっぱり奇跡なのだ。
 
 ボクが死ぬまであと、少し。
 ボクは猫のように死ぬ前に姿を消すことにした。

 病気のことは言っていない。誰も知らないはずだ。赤司くんだけは知っているかもしれないけれど。そんな気がする。
 猫のようにふらり、と。いつの間にかいなかった、そんな風に消えられたらいいな。



 なぜか、ボクは高校生になっていた。
 キセキというのは何度もおきるものではないはずだろう。
 おかしいな、と首を傾げるも、生きているのだから仕方ない。

 嬉しさ、とともに恐怖を抱く。

 今日、死ななかった。でも、明日は死ぬかもしれない。明日、死ななくても、明後日は。明後日、死ななくても、しあさっては。

 今までは、十五歳までだから。そう、頑張ってこれたし、諦めがついた。諦められたわけではないけれど、いいよ、今まで楽しかったから、って笑って死ぬ自信があったのに。

 今は、そんなこと言えない。明日を期待してしまうから。なんとはなしに、明日を考えるけど、明日は来ないかもしれない。

 倒れたら、もう、目が覚めることはないかもしれない。
 眠ってしまったら、もう、目が覚めることはないかもしれない。

 目を閉じたら、もう、目が開かないかもしれない。

 「死にたくない、か」

 そんなことを思えるようになった。いいことだと思う。生きたい、というのは生物として当然の欲求だ。

 夜が恐い。倒れる瞬間の、あのふっと気が遠くなるような感覚が恐い。瞬きを、するその一瞬が恐い。

 いっそ、自分から、死んでしまおうか。

 言いたいことだけ、言って。伝え残したことなないです、って。ありがとうって言ってから、死のうか。

 そんなこと、できるわけがない。もしかしたら、の明日を自分で潰す馬鹿があるか。

 大切な明日が来ることを願って、明日、また目覚ましの音で、この瞼が開くことを祈って、ボクは睡魔に負ける。



 「ねえ」
 「キミに出会ったから、本当は無理したいけど、倒れることが恐くてぎりぎりまで練習できなくなりました。してますけどね。ボクは素直に睡魔に身を任せて眠ることができなくなりました。意地を張って、お風呂に長く入ることが恐くなりました。いま、瞬きをするのもいやです。目を閉じた瞬間に、もう、この目は開かないんじゃないかって。明日がこんなにも恐いものになってしまいました。明日がこんなにも嬉しくて、待ち遠しい物になってしましました。キミとバスケしたり、シェイク飲んだりする時間がとてつもなく大切なものになってしまいました。ボクの日常、全部が全部、宝物になってしまいました。もう、ボクの宝箱はぱんぱんかもしれません。四次元ポケットがほしくなっちゃいました」
 「全部、キミの所為なんです。死にたくないです。でも、いつか死ぬから、先に言いますね。」


 「キミに出会えてよかった。ありがとう」



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