不在の上司と出張する部下(前)

 







えー? うちの隊長がすごい心配してるんで、さっさと仲直りしてほしいっすね! 出水先輩は、フツーっぽかったんで、太刀川さんってとこが厄介そう(三門市・Sさん)
あいつからボーダー隊員っていう肩書き取ったら、何もできねえガキだからな……なあ、ライター持ってねえ? (三門市・Sさん)


その日、太刀川隊に一枚の書類が届けられた。城戸と忍田のサインが入ったそれを届けにきたのは、他ならぬ忍田本人だった。
太刀川隊全員がいつも通り、穏やかに騒いでいる中、部屋の扉を開け、一瞬にして空気を重く冷たく張り詰めさせた忍田の言葉。
「太刀川隊に、本日より一週間の活動禁止を言い渡す。尚、この期限は伸びる可能性がある」
何も言うことができないまま、4人ともが忍田の顔を凝視した。忍田は、心底呆れているというように、半ば疲れを滲ませたため息をこぼした。そして、にっこりと笑顔で、しかし、地獄の底から響いているかのような声で繰り返した。
「A級1位の太刀川隊は活動禁止だ。どうしてか、分かるか?」
A級1位の、という部分を特に強調した。
出水、国近、唯我は一斉に太刀川を見た。
「え、オレ……? 単位、落とした、から?」
どの授業の話をしているのだろうか。心当たりがありすぎた。太刀川はあまり事態の読み込めていない頭を掻いた。
「それって、いまさらですよね?! 太刀川さんだけ、謹慎とかにすればいいんじゃ?!」
「おい、出水。隊長不在でいいわけないだろ?」
「全部、事実じゃん! 隊長いなくたって、できますよ、忍田さん!」
出水が吠える。忍田の視線は出水違って一向に焦る様子のない太刀川へ向けられている。
「慶がいなくてもきみたちはしっかりしてるからね、できるだろう。でも、隊長とオペレーターが不在でも機能するだろうか?」
少人数、オペレーターなしの隊もある。しかし、A級にはない。それは任務のレベルの差を表していた。B級の任務ならばいざ知らず、A級の任務であれば、どちらも欠くことはできないだろう。
「オペレーター、って柚宇さん……?」
「なに、お前も単位落としたの?」
平然と言う太刀川に忍田は片手で顔を覆った。
「慶、お前はもう少し焦ってくれ。誰のせいだと思っているんだ、誰の」
「えへへ、実はライティング落としちゃって明日から補習だったりして」
唯我と出水は顔を見合わせ、国近を見た。気まずそうに目を逸らしていく国近。
「ふたりは、とりあえず一週間で学業の方をどうにかしないさい、いいね。ああ、もちろん、トリガーは没収だ。訓練用であっても起動することは許さないからな。分かってるな、慶?」
ノーマルトリガー最強の威圧感が太刀川を襲っていた。太刀川は、うっと息を詰まらせて数秒、勢い良く立ち上がり
「ちょっと待ってくれ、忍田さん! 隊での活動が禁止なんだよな?」
「慶と国近くんは、ボーダー隊員としての活動が禁止なんだ。出水くんと唯我くんは隊として、やむを得なく禁止だ」
忍田は何も言えない太刀川をひと睨みして「しっかりやりなさい」とだけ残して出て行ってしまった。
「えーどうしよう、オレ、暇じゃん。あ、唯我、便所?」
唯我は、ああ、と答えて部屋を出た。国近は太刀川に苦笑いを向けている。太刀川は、そんな国近に応える気力もないほどに呆然としていた。魂が抜けているかのようだった。
「太刀川さん、ねーってば。聞いてる? さっさと課題終わらせないとあんた、クビになっちゃうんじゃないすか? あ、それって太刀川さん生けていけねえな……」
近界民の発生率も徐々に上昇しており、近隣の星々の動向も怪しい今、ボーダーという組織が太刀川という実力者を手放すはずはなかったが、あながち冗談でもなかった。
もちろん、本人が希望してやっているわけだし、報酬も出ているが、あくまで中高校生、大学生と多くの学生を預かる組織でもあるので、成績等の管理も行っているのだ。A級ともなれば、生計立てられるような金額が入るわけだが、それでもやはり学生は学生なのである。世間の目もそれなりにあるわけだった。
「お前も任務ないんだし、出水が課題手伝うのが一番早いな。うん」
「死ね、ひげもじゃ。いーかげんにしてくださいっ! オレも怒るんすからね?! 隊長じゃない太刀川さんの課題なんて手伝いませんから」
プイ、とそっぽを向いた出水。国近と目が合った。
「柚宇さんも頑張ってくださいね、オレ、一週間なら待つんで」
笑顔で告げると、国近は単語帳を掲げて見せた。すぐにそれを開き、黙々とページめくりはじめる。
出水は決して怒っている訳ではなかったが、少々イラついていたことは確かだった。たまにはキツ言っておかないといけないな、という親心も加味されている。あとは、日頃見返りもなく高校生に課題をやらせる大学生への鬱憤が込められていたりした。
「一週間かぁ」
「出水、ごめんって。オレ、頑張るから、無理そうだったら助けてくれっ!! 頼む!!」
なんだ、このダメ人間。出水はそう思ったが黙っておいた。太刀川に向けた視線に含まれる呆れと侮蔑は隠せなかったが。
「死ぬ気でやってくださいね。死んだら手伝います」
「お前、怒ってるのか?」
「いや、別に? あ、ほんとに怒ってないすよ?」
「いつもより、冷たくないか?」
「いつもがスーパー優しいからっすね」
忍田が置いていった書類に手を伸ばした太刀川は、一度ため息をついた。
「お前が時間無駄にする必要はないからな、三輪隊か……風間隊あたりに任務混ぜてもらえ」
「うっわ、突然、真面目こと言うのやめてくださいよ。心臓発作起こしちゃう」
「あのね、出水? せっかくやる気出したんだから、おだててくんない? オトナなオレを褒めて?!」
褒められると伸びるタイプなんだよ! と叫んだ太刀川。出水は扉の前に立ち、「オレらの隊長がレポートごときで、動けないとかダサすぎるんで、さっさと終わらせてください」と言った。
「風間隊に話してきます」
乱暴にドアを開けて、出水は作戦室をあとにした。
そのドアに向かって国近は「分かりづらいっていうか、分かんないね」とこぼした。


防衛任務の前にミーティングを行っていた風間隊。
「出水……先輩が来ますよ、なんでか知らないけど。あと15秒くらい」
机に伏せていた菊地原が興味もなさそうにぽつりと言った。ホワイトボードの前に立ち、説明をしていたオペレーターの三上がペンのキャップを閉じた。
「出水先輩? どうしてだろう」
「最近、太刀川とケンカしたらしいぞ」
風間が書類の束から顔上げた。歌川が「じゃあ、家出ですかね」とこれまた興味なさそうに扉へ視線を送った。
「あのー、すみません、今って平気っすか?」
がちゃり、とドアから半身を覗かせた出水。4人の目がしっかりと自分に向けられていて、少し驚いたが、風間が「ああ」と頷いたのを見て、風間隊の作戦室へと踏み込んだ。
出水をホワイトボードの前に立たせて、自分は風間の隣の椅子に腰をおろした三上がどうぞ、と手で示す。
「太刀川隊に活動禁止の命令出ちゃって、それが解かれるまで、任務に参加させてもらえないでしょうか? あ、えっと、ダメならダメで、全然いいんすけど」
進学校に通う菊地原と歌川とは縁がなく、どことないアウェー感を感じつつ、特に菊地原から隠すことなく発せられる「なんだこいつ」という疑惑と敵意の混ざった空気にあてられつつも隊の現状を説明した。高校生3人ともが進学校に通う風間隊に対して、普通校の底の方が近いオペレーターと名前を書けば受かるような大学で進級の危機に瀕している隊長がいる我が隊はどれだけバカなんだろうか、と改めて客観的に思ったが、それよりも三上以外の3人の無表情が堪えた。
風間が「構わない」とひとこと。菊地原の依然として続けられていた一種の威嚇行為は歌川によって抑えられた。
オレ、一週間もここでやっていけるかな……。
出水の心配をよそに、三上がすくっと立ち上がった。
「みかちゃん……?」
「あ! ここではそれはよしましょう?!」
オペレーター組はちょくちょく女子会を行っているらしく、国近が三上をみかちゃん、と呼んでいた(みかみか、が主流らしいが)。国近がそう呼ぶので、出水も「三上」より「みかちゃん」の方がしっくり来るのだ。
三上も進学校に通っているので、接点は菊地原、歌川以上に少ないが、国近が(年上のくせに)盛大に慕ってよく話を聞くので、前のふたりよりも知っていた。
「あの、せっかくなんで隊服変えてみません?」
「え、いいよ、そんな手間……」
「わたし、これでも宇佐美先輩のお墨付きなんですよ? 柚宇先輩ほど、手早く面白いことはできないかもですけど」
三上は手を出して、こて、と小首を傾げた。低身長によく似合った可愛らしい動作であったが、順応性の高さに首を傾げたいのは出水の方だった。(国近に対する評価が手早く面白いことができる人間、だということにはなんと返していいのか見当もつかなかったのでスルーした。)
「トリガー貸してください、ね?」
「え、マジなの……? あの、菊地原とか嫌なんじゃねえの? うちの隊を侮辱しとんのか、ワレェとか思わないのか?」
菊地原に助けを求めるが、本人はあからさまにそっぽを向いた。歌川たしなめられ、威嚇はやめてくれたようがだ、むしろそのせいで苛立ちが募ったように見える。
「菊地原は思っても、そんな風に真正面からは言いませんよ。ぼそっと言います」
「それフォローじゃねえと思う」
「そうだよ、歌川。事実だけど」
「そこ、素直に認めるんだ?!」
はっ、と風間を見る。特に気にする様子もないようだった。書類を読んだり、高校生の掛け合いを見ていたりした。
普段のくせで自然に(とは言っても、萎縮しているので少々抑え目ではあるが)突っ込みを入れてしまった。
風間隊では、このノリは許されるのか? 不安から、三上にも視線を送る。
あれ。
出水は気付いてしまった。三上が液晶に向かって作業していることに。三上の手には出水のメイントリガーがあった。ついさっきまでポケットに入っていたはずである。
「みかちゃん?!」
「大丈夫ですよ、服装の設定しか触らないんで」
「なんでそんなに強引なんだよ!! いつもの柚宇さんにナチュラルセクハラかましてるみかちゃんはどこ!!」
「セクハラじゃないです! むしろ、出水先輩の今の発言がセクハラですからね!」
なんという理屈だ。そうは思っても口には出せない。セクハラ、痴漢等に関することは、いつまで経っても男に発言権がない。
「まあ、セクハラ云々は置いといて、もう準備できちゃってるんですよねぇ……」
三上はぐるりと部屋の中を見渡した。
「やっちゃえばいいじゃん。うちの隊にこんな中二病なのがいるの嫌だし」
「お前はもう少しオブラートに包んで言えって」
なんといってもアウェーなのである。そして、自分の隊の粗相で厄介になる身なのである。
「はやくやれ」
風間が言うが早いか、三上はボタンをひとつ叩いた。黒のロングコートの隊服は一瞬のうちに紺と黒のぴったりとしたスーツに変わってしまう。
違和感しかなかった。恥ずかしくて、穴があったら入りたい、というのが正直なところだった。しかし、ジャージ型が多くを占める隊服の中で、「中二病くさい」と頻繁に揶揄される太刀川隊の隊服と、このスーツの「かっこつけている」度合いはどっこいどっこいなのではないだろうか。つまり、毎日、黒のロングコートを着ている自分なら、この程度は恥ずかしくないはずだという結論にたどり着いたのだった。とはいえ、コスプレ感は拭えない。
「よく似合ってるぞ」
頷く風間。三上も「かっこいいですよー」と呑気に褒めた。残り2名は、まあ言わずもがな、どうでも良さそうであった。菊地原に似合っている、などと言われたら、出水の方が鳥肌ものだ。
「……落ち着かないんすけど」
米屋にバレたら爆笑される。今度、模擬戦をする約束をしてしまったというのに。明日はもう、国近はいない。1週間、風間隊の任務に同行する以外は何もしない、というわけにはいかない。誰かに模擬戦を挑む度に、廊下を歩く度に「うちの隊、活動禁止令出てて〜」と説明しないといけないのだろうか。
上にコートを羽織っているのが通常だったため、「足りない」という感覚が強かった。ぴったりとした素材がこれまた、違和感のかたまりで、裾がひらひらしないということがおかしくてたまらない。
そわそわと、どうしようもない感覚に無理やり目を瞑った。
「はい、出水先輩。これが今日の任務の概要です。基本的には、普通の防衛任務なんですが…………」
風間から三上を経由して手渡された書類。目を通しながら説明を聞いた。三上の説明は端的でわかりやすく、時折挟まれる「風間隊で活動する出水」に対する風間のアドバイスは的確だった。
「企業秘密的なのはないんですか?」
「今のところ、ないな」
薄く笑った風間。その笑みには自信が滲んでいて、何かあると言っているようなものだった。
食えない大人だなぁ。出水は風間隊と共に作戦室をあとにした。

出水のためを思ってか、自分の隊の情報が漏れないようにするためか、または、その必要がなかったからなのか、この度の任務では風間隊の十八番であるステルスはほとんど使われなかった。ただの防衛任務であったので、必要がなかったと考えるのが妥当だと、出水は頭の片隅で考えていた。
傍から見てきたものの中に入ると、色々なものが見えてきた。太刀川隊にあって、風間隊にないもの。風間隊にあって、太刀川隊にあるもの。
「すっげえ勉強になりました!」
任務を終え、もう帰る、という雰囲気の中で出水は風間にそう告げた。ありがとうございました、と頭を下げた。驚いたのか、目を丸くした風間隊の面々。
「いや、こっちこそ色々な発見があって良かった」
「あと、3日もあるんだから、そういうのは最後に取っといてよ」
戦闘体を戻して、制服のネクタイを締めた菊地原が歌川を引っ張って、帰ってしまった。三上も「先輩のデータ更新されましたよー」と意味深な笑みを浮かべて出て行った。
残されたのは出水と風間。
「1本やっていくか?」
「え、いいんすか?! やります!!」
まだ戦闘体を解いておらず、おそろいの隊服に身を包んだふたりは、空いてる訓練室へ向かった。
5本ほど、模擬戦をしたところ(結果は出水の1勝2敗1引き分けであった。満足のいく結果だったと言える)で風間に「話があるから引き上げるぞ」と言われた。
実体に戻り、ジーパンとパーカー姿の風間が出水に缶コーヒーを投げてよこした。もうこの青い隊服で活動するようになって4日も経っていたが、着慣れた学ランに袖を通す度に酷くほっとしていた。
自動販売機の前のベンチには誰もおらず、ふたりは並んで腰を下ろした。
「えーっと、話って……?」
どんな話されるのか見当も付かなかった。今日の任務の説教でもされるのか。
「太刀川のことなんだが」
「太刀川さん? また、なんかしましたか、あの人」
「そうじゃない、気まずいことになったと聞いてな」
今日も家出じゃないかっていう話になった、と付け加えられて、咄嗟にはなんのことか分からなかった。
「あ! あれっすか!? 別に気まずくないですよ?」
出水が自己嫌悪に陥り、一日中鬱々としていた日からすでに半月も経過していた。
「そうなのか? あんなにあいつに絡まれたのは久々だったから、相当には堪えているのかと思ったんだが……」
「それって、太刀川さんおでこにメモ残してった日のことですか?」
上司の恥ずかしい話はとどまることを知らない。生きている限り、恥ずかしい逸話が増え続けていくらしい。
「迅にな、書くものが見つからなかったら一番、身近にあったものにすればいいと言われてな」
そこで、「だから、紙を持っていけ」と言わないのが迅悠一という男だった。風間は、はじめはペンことだろうと思って、作戦室にあったマジックペンをとりあえずにポケットに入れて行ったらしいが、まさか「書くもの」が筆記するほうではなく、される方だと気が付いた時には思わず舌打ちをしたという。
「はは、迅さんらしーですね」
「一応、太刀川のことを思って言うか悩んだがな、」
「今更なんじゃないですかね、あの人の体面とか」
「そうだよな、俺もそこに行き着いた。あの日あいつは、どうしてかポケットから缶ビールが湧いてきて、俺の前でひとりで酒盛りはじめたんだ」
突然なんの話だ?! 出水は混乱したが、相づちを打ちつつ風間の話の続きに耳を傾けた。
「ああ、太刀川が来る前に、迅から電話があって、酔っ払いの世話は任せたとかなんとか。それで、酔い冷ましくらいになるかと思って模擬戦付き合ったんだが、独り言ばっかり言っていて気色悪くて引き上げさせたんだ。そこから、ここで太刀川の愚痴に付き合わされたんだ」
自分たちが座ったベンチをべちん、と叩いた。
「あーなんか、すみません。うちの隊長が、なんか半分オレのせいっぽいし」
「そうだな、お前のせいらしいぞ」
「え。いやいや、半分は謙遜みたいなもんで8割方、太刀川さんが悪いんですよ?」
太刀川のどこぞの女性との情事に遭遇してしまったあの日にかかってきた電話のいつになく焦っていて、しょんぼりした声を思い出す。その次の日も何事もなく接していたような気がするのだが、太刀川も自分と同じく何か思うことがあったのだろうか。
「……それもいつものことだろう? で、あいつが『出水がいなくなったらどうなると思う?』って聞いてきたんだ」
「……………………はい?」
「だから、お前がいなくなったらどうなるかって俺に聞いてきた」
「それは理解できてます。理解出来ないのは、そこに至った太刀川慶のことです」
「俺も分からん」
突如訪れた沈黙。気まずかった。しかし、それどころではなかった。その質問の答えは先日、既に聞いていた。「死ぬ」のはずだ。部活を、仮にも討伐の対象である近界民と同列に扱った挙句の「いなくなったら死ぬ」のはずである。
たかがセックス見られたくらいで、なにをそんなに考えることがあったというんだ!! 出水はそう怒鳴り散らしてやりたくなった。自分を自己嫌悪を陥らせたという恨みもこめて、だ。
「最近、あいつと模擬戦はしたか?」
「いや、全然。遠征とか色々あったし」
「やりたいか?」
「そりゃあ、もちろん。あの人の頭ぶっ飛ばすのが目標ですから」
いい目標だな、と風間が微かに笑ったのはどういう意味なのだろう。決して、揶揄しているようではなかった。
「太刀川はバカだろう? 戦闘以外に使える脳がない。つまりバカなんだが、あいつの剣はあいつよりもはるかに雄弁だし賢い」
伝わってるか、という確認の視線に頷いて応える。
「分かります、確かにそんなに感じです」
「1回、訓練室にぶち込んで模擬戦しろ」
だから、という接続詞を言いはしなかったが聞こえた気がした。出水には、どこがどう順説として繋げられたのかは分からなかったが。
なにを太刀川の弧月の聞けばいいというのだろうか。
「はぁ、それはいいんですけど、なんでそんな酔っ払いの愚痴にきちんと付き合ってあげるんすか? なんか、佐鳥経由で嵐山さんも心配してるって聞かされたんですよね」
「あいつが腑抜けたら、困るヤツがいっぱいいるってことじゃないか?」
「……オレがなんとかできるもんなんすかね? そもそも、太刀川さんがどうしたって言うんです?」
風間の答えに、出水は感じていることがあった。それは、実は風間は太刀川のことなど心配もしていなければあまり興味もないのでは、ということだった。まあ、出水も同じようなものだが。いや、だからこそ、わざわざ改まって話すことではなかったはずなのだ。
「出水がどうのって言うんだから、お前がどうにかするしかないと判断した」
そういうのを丸投げと言うんでは。
そういうもんですか、なんて返事をしたところで空になった缶をひょいと取り上げられた。
「まだ3日ある。好きなだけ盗んでいけばいい。あいつの頭だけじゃなくて両腕も吹っ飛ばしてやれ」
「はい!!」
上手くあしらわれたような気もしてはいたが、風間に励まされると、そんなことはどうでもいいと思えた。なぞのやる気がむくむくと湧いてきた。
風間がいい返事だ、と笑う。










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