宮地パパと息子テツヤと甥っこ緑間の日常.01




『息子の語尾がおかしい件について』



「きよしさん、起きて下さい」
「……きよしさんは睡眠を所望する」
 テツヤは、ふむ、と一度頷いてベッドの縁から降りた。折角、自分がおこしにきてやったというのになんなんだ。まあ、仕方ないか、と父親、宮地清志の寝室を後にした。
 先日、「休みの日くらいは目覚ましの音で起きたくねえなー」と宮地がぼやいていたので「じゃあ、ぼくが起こしてあげますよ」と言ったら大層喜んでくれた。しかし、テツヤも乗り気で起こしに行ったらこのざまである。あとで、しんたろうくんに泣きついていやる。なんの意味もないけれど。
「どうした? 清志さんは?」
「きよしさんはすいみんをしょもうしたのだよ」
「そうか……。まあ、休みの日くらい寝かせてやるのだよ」
「ですよねー」
足元のテツヤに気を付けながら、相変わらず遠い手元を見やる。195pもあると何かと不便だと家事をやるようになってしみじみと実感している緑間である。高いところの掃除が楽なのはもちろんだが、掃除機をかければ、普通の人以上に背を曲げなくてはいけないし、洗濯かごの中身を取り出すのも面倒くさいし、台所は低いし。120pもあるだと自慢げに言っていたテツヤは小さすぎて、手を繋ぐのも困難だった。だから、いつもだっこしているのだが、どうも、男としての矜持があるらしく抵抗される。
「きよしさんと遊びたいんですけど、どうやって伝えたらいいのだよです?」
サラダ用のたまねぎを切っていたら不思議な言葉が耳に入った。
「ん……? 今、なんと言った?」
「きよしさんと遊びたいって」
「要約しなくていいのだよ……。全くそのまま言ってみるのだよ」
こて、と首を傾げながらもテツヤは口を開いた。
「はい? きよしさんと遊びたいんですけど、どうやって伝えたらいいのだよです? って……」
「ふむ。ちょっと待ってろ」
はい! と敬礼をして自分の横を通り過ぎるピンクのエプロンの裾を見たテツヤ。しんたろうくんはどこに行くのでしょうか。今日のあさごはんは何なのか、背伸びして台所の上を見ると、目玉焼きと作りかけのサラダが見えた。その中に茹でたブロッコリーの姿を確認し、焦る。どうやっていんぺいしよう。残したらしんたろうくんにもきよしさんにも怒られる……!
「テツヤ?!」
「あ、きよしさん。おはようございます」
「おう。じゃなくてだな。なのだよはやめなさい。なのだよは!」
寝ぐせはついているわ、パジャマのボタンは外れているわ、というまさに寝起き姿で飛び出て来たらしい宮地。背伸びをやめて、キッチンに駆けこんできた宮地の正面に向き直した。首を傾げているテツヤにしゃがんで視線を合わせ、小指を立てた拳をテツヤの顔の前に持ってくる。
「きよしさんと約束しよう。な?」
「なにをですか?」
「なのだよは、もう一生言いません、て」
「なんのはなしです?」
「ふっ。清志さん、諦めるのだよ」
宮地の後ろで腕を組んで立っている緑間の眼鏡が朝の光にきらりと輝いた。
「てめえは黙っとけ!! 轢くぞ!」
無自覚だと……! 頬を少し赤くした緑間はヤンキー顔負けの睨みをかましてくる宮地から目を逸らしながら、小さくガッツポーズをした。すかさずに、撲殺するから、と乾いた声が聞こえてくる。
「テツヤ……。いじめられたくないだろ? なのだよ、はいじめの原因になる可能性があるんだ。やめような?」
「轢くぞ、はおーけーなのに?」
「なんで、そこは自覚あんだよ。真太郎笑うな、死ね」
「ことばづかいにかんしてきよしさんには言われたくないです」
「いいから!! なのだよ、は禁止!! 分かりましたか?!」
「えー」
「一カ月、バニラシェイク禁止にしてもいいんだな?」
「はうあ?! だめでしょう、それは! ぼくのゆいいつの楽しみをうばうとですか!? じつのちちおやなのに!? むすこ、かわいくないですか!? ぼく、泣いちゃいますよ!! 泣くのだよ?!」
両手で顔を覆って、肩を小刻みにふるわせる緑間。にっこりと擬音のしそうな笑顔を浮かべている宮地の口元が怪しく引き攣っている。その宮地の肩を掴んで涙目で思い切りゆするテツヤはわざとらしいほど頬をふくらませていた。
「きよしさんのばかー!!」
とどめだ! と言わんばかりに小さな両手で思い切り宮地の額を押した。(それは後のイグナイトパスに繋がる動きであり、それ以前にしゃがみこんでいる人間は額を軽く押されただけでもバランスを崩し、後ろに倒れるのものなのである)
予想通り、大きな音を立てて宮地は尻もちをついた。テツヤはそれを確認してから台所から走り去りた。緑間はもう我慢ができなかったらしく、とうとう吹き出してしまった。
「真太郎、てめえあとで覚悟してろ」
「てーつやくん? きよしさんとお話しようか? ねえ」
走り出した勢いを殺さぬまま、思い切り踏み切ってソファーに顔から飛び込んだテツヤはソファーに置いてあった大きな声ペンギンのぬいぐるみにぐりぐりと頭を押し付けた。
「いやです! だんこきょひです! ぼくがわるいですか、それ!! あんまりぼく悪くない気がします!! おうぼうよ! りふじんなのだよ!」
「一瞬、オネエ入らなかった? ねえ、テツヤ。普通にタラちゃんみたいに喋ってて、お願いだから!! 清志さん泣くよ? 俺も泣くからね!!」


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