星は好きですか?


期末考査も終わって、夏休みに向けてそわそわと浮き足立っている高校生たち。それは私も同じだ。夏休みは楽しみだった。と、同時に不安なこともたくさんあった。主に文化祭のことである。みんな、ちゃんと練習きれくれるかな、とかそんなことだ。
各部活の夏休みの練習日程を聞いて回っている。大体、どのあたりならみんなが練習に出れるのか把握しておくためだ。

「高尾くん、バスケ部っていつ練習? 合宿とかは?」
「合宿? 2回あるぜ。練習はんー、マネージャーに聞かねえとよく分かんね」

クラスのLINEで聞いてもまともな返答がくるとは限らないし、集計する時に、自分で書いていった方が形式が統一されていて楽だったりするので、私は休み時間ごとに誰かしらを尋ねていた。
バスケ部のマネージャーはうちのクラスにはいない。
そもそも、緑間くんがいれば高尾くんに聞く必要はなかったのだけど、休み時間のたびに、どうしてか緑間くんはいなかった。授業中確かに静かに黒板に向かっているのに、授業が終わる度に、一瞬にして、どこかへ消えていく。あれか、ラッキーアイテム絡みか。

「緑間くんは?」
「今日のラッキーアイテムがちょっとね……流石に教室には持ってこれなかったみたいだぜ」
「みたい、って無責任な……。どうにかしてあげなよ」
「そのさ、オレに対する『緑間くん困ってるよ? 高尾何してんの?』っていう空気なんなの!」
「そのまんまだよ。緑間くんには高尾くんが必要なんだって」

高尾くんだって分かってるでしょ? と高尾くんの肩を叩いてから、私は職員室へ向かった。高尾くんがあからさまにため息をついて、やれやれと肩をすくめて見せたので、笑って応えた。
職員室に行けば、部活用の掲示板がある。そこに各部活の日程表がぶら下がっているはずだ。面倒くさかったし、うちのクラスみんなの予定さえ分かれば良かったので、渋っていたが、結局くることになってしまった。ちょっとの階段を登るのも嫌なのが、文化部だったり。
階段を上がってすぐの職員室前廊下は、たまに漏れてくる冷気が足首を撫でる。どの教室にも冷房は入っているし、寒いくらいなのだが、廊下は暑い。
掲示板の下方に画鋲で張り付けられている各部活の日程表。いままで聞いてきた情報と確認しつつ、まだ聞けていない部活のものをメモしていく。
しつれいしましたー、と職員室の扉の開く音と共にふわりと冷気が漂ってきた。聞き覚えのある声だなと思って、そっちを見る。

「「あ」」

出てきたのは宮地さんだった。相変わらず、ドアをくぐっている。

「佐藤じゃん、どした?」
「どうもデス。夏休みの日程を組みにこれを見にきたんです」

宮地さんは私のとなりまで歩いてきて、ああ、と頷いた。

「実行委員なー、面倒くさいよな」
「宮地さんもやったことあるんですか?」
「いや、俺はやってねえよ。部活忙しくて、そーいうのはやってこなかったし。見てて、面倒くさそうだった」

実際、面倒くさいことこの上ない。クラス40人にひとつの情報を伝えるのがこんなに大変だとは思わなかった。非協力的なのも話が進まなくて困るし、みんながみんな意見を出し始めれば、収集はつかないし、人間関係にヒビが入り出す。なんてこった、と思った時には後の祭り。でも、意見出してくれた方が、まだマシかもしれない。

「こっちもな、ちゃんと罪悪感とか感じてるんだぜ?」
「クラスに全然出ないで、睨まれちゃったんですか?」
「そうそう。あとさ、うちの学校の中だと、なんだかんだ、バスケ部が一番実績出してるから、みんなちょっと扱い違えだろ? たまに行ったら、やんなくてもいいっていう空気になってるしな。気遣わせてるも申し訳なくてな。あれ、地味に寂しいし」
「だって、宮地さん、レギュラーじゃないですか。部活優先した方がいいって思いますよ。たぶん、私も高尾くんと緑間くんに同じような対応しますし」

寂しいものなのか。文化祭だし、頑張るのは文化部の方が圧倒的に多いと思う。運動部には体育祭という見せ場があるんだし、文化部が力を入れるのは当然だ。
文化祭の準備は基本、夏休み中だし、運動部は忙しいのではないか。合宿とかどの運動部でもやってるし。
バスケ部に関して言えば、うちの学校の期待を一心に背負っているといっても過言ではないだろう。この間の大会では負けてしまったらしいが、まだ大きな大会が残っているらしいし。クラスには40人もの人がいるけれど、秀徳高校バスケ部レギュラーは学校中に数人しかいないのだから、特別扱いされるし、こっちだって、頑張って欲しいと思うから特別扱いをする。

「やれって言われても、結局、部活をギリギリまで優先しちまうんだけど、だからって、最初っからそうなのは、ちょっとな」
「じゃあ、ちゃんとあの二人にも仕事押し付けますね」
「そうしろ、そうしろ」

宮地さん、ちょっと嬉しそうだった。
私が地道にメモってる横で宮地さんはボーッと立っていた。なにしてるんですか、と聞くのは躊躇われた。だって、この人、暇ですオーラ出してるし。受験生なんだよね。暇じゃないでしょ。

「なあ、佐藤は文化祭、なにやんの? つーか、何部?」
「天文です。プラネタリウムやりますよ」
「天文ってまだあったんだ」
「ありますよ。加藤先輩だってそうですよ?」

宮地さんと同じクラスのはずだ。前部長さんで(春に代替わりした)、一応、もう引退ということになっているがちょくちょく顔を出してくれている。

「俺らの時って同好会としても存続の危機だったしな」
「今年から部になったんですよ」
「楽しい?」
「楽しいですよ。唯一、屋上に入る権利を持ってるのは天文学部だけですしね」

ひと通り、メモをして、掲示板から目を離して宮地さんを見上げた。

「俺も屋上で星見たいわ」
「まあ、見れるのは月ばっかですけどね。星、好きなんですか?」
「それなりにな。詳しいわけでもなんでもないけど、たまに「あー星見えるな」って程度には」
「私もそんなもんですよ。全然、詳しくならないです。やっと、望遠鏡を組み立てられるようになったくらいで」

腕時計ちらりと見る。そろそろチャイムが鳴る。

「望遠鏡とか縁ないな」
「今度、来ます? 下校時間以降にやってますし、少人数の部活ですからよくゲスト来ますし」
「まじで?」
「気が向いたら教えてください。いつでも、大歓迎ですよ」

じゃあ、と軽く会釈する。チャイムが鳴り出した。やばい。なんだか、宮地さんと会うと、毎回ダッシュさせられる気がする。
こけんなよー、と間延びした声が背中にかけられる。あの暇っぷりは宮地さん文系なのかな。




星は好きですか?

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