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白い日 0314 (19:47)



「金森さん」

 勤務を終えた金森かなの前にひょっこりと姿を現したのは、どこか女性らしい服を纏った中性的な青年、桐野蒼也だった。彼は堅苦しい警備員の制服を身につけるとそれなりに見えるのだが、服が変わればがらりと印象も変わる。柔和な笑みが乗せられれば完璧だ。
 蒼也の方から声をかけられたのを内心で驚き、彼女はお疲れ様ですと当たり障りのない返事を返し相手が続けやすいように間を取り持った。

「ね、金森さん、これからちょっと時間あります?」

 かなの気遣いを知ってか知らずか、蒼也は最も己の容姿における魅力を引き立たせる笑顔を浮かべ、可愛らしく首を傾げてみせた。つられたように笑ったかなが軽く頷くと、ぱっと顔を輝かせる彼が警備員として雇われているなど誰が信じられようか。

「よかった! ……この前のバレンタインデーのお礼、しようと思って」
「あ…、そんなの、別にいいんですよ?」
「僕がお礼をしたいんですよ」

 くるりと優雅に身を翻す彼は子供のように浮足立っているようだが、どうしてかかなの目にはそれらの仕草や動作が作り物染みても見えた。振り返って細められる空色の目は、景色を映し出す硝子玉のよう。

「ふふ、美味しいケーキ屋さんがあるんです。僕にエスコートさせてくださいね」
「……ええ、それではお言葉に甘えて」

 夜景を映しきらきらと不思議な色に光る瞳を前にして、かなはひとつ頷き彼の隣に並ぶことを選んだ。

(尻切れトンボなんて気にしないちゅとさん宅かなさんお借りしました)





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