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えあ 0305 (01:59)



 
 それは果たして執着だろうか。
「ねえ、角子」
 そうだとしたら何て愚かしいのだろう。少なくともニコラは己が誰よりそう思うことを自覚していた。割に合わない肉体労働だ、報酬も何もないのを知っていたのに。頬に付着する乾きかけた赤を拭い振り向く。
 地面に座り込んだ少女は声も無く虚ろな目のまま彼を見上げた。結果的に彼女を助けることとなったが礼を言われたいわけではない、何か報酬が欲しいわけでもない。一番腹立たしいのは、自分自身が何を求めてその行動に至ったのかを解せないこと。
 角子に何を求めても見返りは無い、自我を半ば以上失っているのだから。血に濡れた手を差し出しても、自ら手を重ねようとすらしてくれない。酷く虚しい、まるで空を掻いてでもいるような感触。ニコラは自嘲気味に口元を歪め、その場に膝を付き角子の手を取り引く。抵抗無く体勢を崩した小さな身体は、決して体格の良くない彼の腕の中にも容易く収まった。
「ねえ、頼むからさ」
 噎せ返るような血の匂いが彼女に染みついてしまう前に。そう思ってもニコラは角子を手放すのを実行に移せなかった。
「君だけは、いなくならないでよ」
 らしくない、意味のない懇願だ。彼の服をきゅっと強く握った小さな手の感触が錯覚でも、それに縋ってしまいたい、拠り所が無ければ今の彼はすぐにでも掻き消えてしまいそうだった。鮮やかな彼の瞳が伏せられる。言葉を紡がず黙した少女の目線の先には、対比的な青い空が広がっていた。

(ちゅと様宅ニコラさんと角子でえあ!)





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