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雹紅 0305 (01:55)



 
「だぁあ鬱陶しい、離れろクソ赤毛ェ!」
 雹は腰の辺りにひっついた彼女を引き剥がそうと身体を捩る。傍目から見れば暴れ回っているようにしか見えない動きだが、当人はそんなことなど気にしていられなかった。
 一方紅の方はと言えば、彼の背中側から腰に腕を回し広い背中に顔を埋めている状態だ。普段のようにへらへら笑っているわけでもなければ嫌がらせというわけでもない。どれだけ振り払おうと試みても何故か剥がれないおまえは粘着テープか、などという発想に思い至った雹も、その頃には頭が冷静になってきた。軽く息を切らしながら、どこか様子の違う彼女の手に、躊躇いつつ触れる。
「おい、赤毛?」
 眉間には常時の三割増しで皺が寄せられていたが、その声は苛立ちの他の何かも含まれているようだった。
「……ん」
 やっと紅が発した声は短い音節のみ。それだけで何かを察したらしい雹は、深い深い溜息を一つ。表情には、諦念。
「……三分だけなら、お前の存在を無視してやる」
 突き離すような言葉ではあったが、それで十分すぎるほど。顔が見えなくても彼女が吐息を揺らして笑ったのが、確かに雹には伝わっていた。
「ありがと、おにーさんだいすき」
 無視すると宣言した手前、答えは無かったがいつもの事だ。

(ダイチ様宅雹くんと紅でえあですらなかった)





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