TOV長編。


私を見つけたのは小さな綺羅星。

カロル・カペル加入




あの魔導器に近づく魔物はいないのか、はたまたユーリが辺りの魔物を一掃したからか。
あとはたいした魔物も出ずに楽に進めた。
しかし、ラピードと同時に自分も動きを止める。
進む先で激しく草を掻き分ける音が聞こえたのだ。

そして幼い子供の声。
何かに追われてるのだろうか?激しく息切れしている。
あれだけ音を出せば危険な魔物を呼び寄せてしまうんじゃないかというくらいだ。


「ラピード?ユキセ?どうしたんです?」


ラピードの様子を見て二人も立ち止まり辺りを警戒しだした。
あれだけ快適だった道だ。
後で“お楽しみ”が待っててもおかしくはない。このまま快適なままのほうが良いんだけれど、まぁ冒険に楽な話はなかなか無いものである。

自分は柄に手を置くだけで茂みの向こうを見定める。
子供に負けるつもりは毛頭ないが、油断をしてはいけない。
子供だろうが武覚醒魔導器さえあれば大人一人を殺すくらい造作ないのがこの世界だ。
二足歩行の種族なら、警戒しておく方がいい。

しかし聞こえたのは弱腰な声だった。
それと聞き覚えがあるようなないような……なんだか緑の蛙の鳴き声に聴こえてきた。
共鳴してそうな……ケロケロ。


「エッグベアめ、か、覚悟!」


バッといきなり出てきたのは小さな少年。
予想外の出現に拍子抜けするユーリとエステル。
身の丈に合っていない武器を振り回してくるくるとこちらに向かってきた。
たしかに攻撃してきてはいるが、武器に振り回されているだけである。
大丈夫だろうか、あれ。

こちらに剣を当てることなくくるくると回る少年の剣をユーリがタイミングを見計らって折ってしまった。
少年はそのまま衝撃でころんと転がっていった。


「ひいいっ!ボ、ボクなんか食べても、おいしくないし、お腹壊すんだから!」


挙げ句の果てに死んだ振りをするのを見て昔やったことを思い出してしまった。
微妙な寒気がするあれだ。巨大な魔物相手に馬鹿やった記憶を思い出して地味に顔が熱くなる、黒歴史は消えてなくなれ。
恐がる少年を面白がり更に吠えるラピード。
なんだか楽しげだ。


『……ラピード、分かってやったでしょ』

「ワフ?」


ぱたぱたと尻尾を振り回すのでつい頭を撫でてしまう。
知らないってか?可愛いなこのこの。


「ほ、ほほほんとに、たたたすけて。
ぎゃあああ〜〜〜〜〜!!」

「忙しいガキだな」


ワーワーバタバタと騒がしい子供だ。
自分も昔はあんな頃があっただろうか、……ないな。
どの子供時代もおさき真っ暗闇の人生だったわ、普通の青春もしてない。
思えばなんて嘆かわしい人生なのだろう……。


「大丈夫ですよ」

「あれ、魔物が女の人に」

『ラピード、魔物だってさ』

「ワン、ワンワン!」

「ひぃっ!」

「ユキセ、ラピードっ。
いじめちゃ駄目です」


注意され、ラピードと顔を見合わせてラピードは煙管を下にして自分は両手をひらひらと上げた。
降参のポーズである。
どこで出会うのかと思ったが、まさか森の中で出会うとは。
記憶もいよいよ曖昧になってきたようだ。
こんな体でも脳みそは人のそれである。
なんせ何十年も昔の記憶。その合間に濃い記憶もあるのだから忘れない方がおかしい。



* * *



最近のギルドは小さい子も入れるんだなというのがこの少年、カロルの紹介を聞いての感想だった。
どんなギルドかと聞いていたらまさかの魔狩りの剣(まがりのつるぎ)。

あのデイドン砦で騒いでいたティソンとクリントがいる魔物討伐の大御所ギルド。
五大ギルドの一つじゃないか。

どれだけ加入条件を緩和したんだろうか。
たしか魔物を滅したいという意志が強ければ入れたはずだけれど子供を簡単に入れるほど緩いギルドでもなかったはず。

それともこの小さな彼に特別な才能があるのだろうか。
……そうは見えないような、いやでも自分もこの世界での親の血が流れてるとはいえ平々凡々な顔だし……。


「俺はユーリ、それにエステルにユキセとラピードだ。

んじゃ、そういうことで」


ギルド、というとこに面倒ごとだと察知したのかそそくさとまた歩き出したユーリ。と、ラピード。
自分ももうギルドとこれ以上深く関わるのはご免なのでユーリについて行く。
まあご免といっても結界の外の世界に行く用事がある限りカウフマンとかと関わってしまうわけだけど。
最低限の関わりだけで生きていきたい。


「あ、え、ちょっとユーリ!?ユキセ!?
あの、ごめんなさい!」


道を知らないクオイの森でエステルはカロルに謝ったあと急いでこちらへと向かいカロルを置いて行った。
呪いの森とまで言われて放置されている所なので賢明な判断である。

そのままポカンとしていたカロルはハッとして慌てて追いかけてきた。


「へ?……って、わ〜!待って待って待って!
三人は森に入りたくてここに来たんでしょ?ならボクが……」

「いえ、わたしたち、森を抜けてここまできたんです。
今から花の街ハルルに行きます」

「へ?うそ!?呪いの森を?あ、なら、エッグベア見なかった?」

「ユーリ、ユキセ、知ってます?」

「さあ、見てねえと思うぞ」

『(いると知ったらまっくろすけが煩いだろうだし)いないでしょ、こんな所に』


クオイの森の存在を知っていたのに口にしなかった前科があるので隣の視線が煩いが、
今まで倒していたのは低級で小さなものばかりなため、巨体なエッグベアを見間違える筈がない。


「そっか……。なら、ボクも街に戻ろうかな……あんまり待たせると絶対に怒るし……うん、よし!
三人だけじゃ心配だから、魔狩りの剣のエースであるボクが街まで一緒に行ってあげるよ」


さっきラピードに怯えていた奴の台詞だとは到底思えない台詞だ。
「ほらほら、なんたってボクは魔導器だって持ってるんだよ」と、ずずいっと鞄に付いてある魔導器を見せつけるが、そんな貴重な物も自分たち三人と1匹とも持っているのだ。
ラピードはこの姿なので持っていないと思われても仕方ないだろう、なかなか前例がない。

ユーリとエステルの腕と、腰のベルトに付いた私の魔導器に気付き驚きながらも慌てて言い加えた。
本当に忙しい子だ。


「あ、あれ、三人ともなんで魔導器持ってるの!な、ならこれでどうだ!」


分厚い本を取り出すがユーリに取られてしまい、
パラパラと捲るそれをエステルと一緒にユーリの横から見る。これは自分で書き込む形の……要は白紙だらけの図鑑のようだ。


「魔物の情報ですね。でも、途中から全部白紙ですよ?」

「こ、これからどんどん増えていく予定なの!」

『ふーん……ユーリ君、ちょっとそれ貸して』

「ん?おう」


貸して貰った本を見て手持ちに入っていたペンで簡潔に今まで会った魔物を記入していく。簡単な絵付きで。
流石にここらで出会った魔物とこれから行くハルルまでの魔物くらいしか記入しない。
あとは実際に行ってのお楽しみである。会ったらある程度描けるしね。


「わあ!ユキセ絵が上手です!」

「おー、すげーなコレ。知らない魔物もいるな」

『伊達に卸しで外に出てないからね』

「ちょっと、ねぇ勝手に書き込まないでよ!
……ってさっきより豪華な内容になってる!」

『ついでに魔物がドロップするアイテムも書いておいたよ』


ここらの魔物は一通り見てきているので細かい特徴も覚えている。
しかし魔狩りの剣と豪語していたものの、これでは形無しだ。
……カロルの入っているという魔狩りの剣
、実は偽ギルドなんじゃないのか?


「エースの腕前も、剣が折れちゃ披露できねえな」

「いやだなあ。こんなのただのハンデだよ。
あれ?なんかいい感じ」


デカイハンデだなぁ。
先ほどよりも振りやすくなった得物を見て喜んでる姿に肩を落とした。
これでよく今まであのギルドの一員として生きていけたな……。
側に面倒見のいいメンバーがいたんだろう、普通じゃこの子自然淘汰して魔物の餌になってる。
その隙にユーリとエステルに道を指差して先へ行こうと合図する。

そのまま剣を振り回して喜んでるカロルを置いて行こう作戦だ。
「ちょっ、もー置いてかないでよー!」と慌てた声にすぐににその作戦はすぐ失敗に終わったが。

恐いならこの森に入らなければいいのになぜエッグベアなんて巨大な魔物を追いかけていたのだろうか、こんな子ども一人で相手するなんて下手したら死ぬだけだろうに。

一緒に行動できる仲間ができて嬉しいのか、ウキウキしながらカロルが先頭を陣取って歩いていた。
時折りユーリが意地悪して驚かしにかかるがその度にエステルが注意していた。


「ユーリ、ダメですよ」

「いや、なんとなく挙動不審で」

「少し落ち着きがない感じだけど、悪い子じゃなさそうですよ?」

「たしかに悪巧みするようには見えねぇけど、なんか妙なこと考えてる気がするんだよな」

「自分と似てるから、余計にそう思うんですね」


要はユーリは珍しく素直になれないあたりの同族嫌悪感のようなものをカロルに対して持っているんだろう。
エステルの言う通りで、本心を打ち明けることもせず意地張って表に出さない感じが似てる。
エステルもよく見てるなぁ。

彼はなかなか自分の表を出そうとしないから。
城から出たばかりでも意外と周りを見ていたエステルがそこを指摘すると、子ども相手にそんな感情を持っていたということにばつの悪そうな表情をしていた。
意外と可愛いところもある青年だ。


『ふーん、可愛いねぇ〜』

「うっせーよ……」

「うふふ」

「え、なに?なんの話してんの?」

「なんでもねーよ、それっ」

「いたっ!?」


話しているうちにカロルとの距離が空いていて慌ててこちらに向かってくる。
隠すようにカロルの額にデコピンしながら通り越して先に行ってしまった。
素直じゃないんだからと肩をすくめる。


「もお、ユーリったら……」

『素直じゃないねぇ』

「痛いよぅ……もう、なんなのさ……」

「ワフゥ」


額に手を当てた涙目のカロルの情けない声が漏れた。


ーーーーーー

スキット「剣」

『それ、良かったら弁償するけど……あとであのまっくろすけも謝らせるし』

「え、いいよ?この方がすごい持ちやすいんだ」

『そっか、剣よりハンマーとかの打撃系似合いそう。
ドンっと叩いて周りの敵一掃!とかね』

「えへへ、そうかなぁ?ユキセのは?
何この形、カッコいい!」

『そう、見てみる?ほら、この剣はね……』


「子供を好きとも嫌いとも言ってなかったくせに、まさかカロルとも仲良くなれるとはな」

「取られて悔しいです?」

「まさか、あいつが読み聞かせするって来ると凄いぞあれ。
どこから来たのかガキンチョたちでほぼ満席状態になるからな」

「ふふふっ、言わないだけで本当は好きなんですね。
ユキセの読み聞かせ、私も聞いてみたいです」


スキット「本屋の店員?@」

「ユキセはどんな仕事してるの?」

『んー書店の店員やってるよ。帝都にあって星空書店ての』

「え!星空書店!?あの二人まだ生きてたんだ!」

『ピンピンしてるよ。まぁ帝都とダングレストとじゃ情報伝達の差は出るとは言え、死んだと思われてたのね……』

「ご、ごめん……でも知らない本は無いと言われてて世界中を旅した二人の下で働いてるって凄いや!」

『あの二人が凄いだけで、私は何もない人間だから』

「身のこなしといい本当何者なの……?」

『うーん、まぁ、ただの人間だよ』



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