TOV長編。


私を見つけたのは小さな綺羅星。

クオイの森





それにしてもやっぱり、クオイの森を選ぶのか。
あまり良い思い出はない森なので、勧めたくはなかった。
薄暗いし、魔物も当然ながらいるし、エステリーゼを危険に合わせる訳にもいかない。
自分にとってエステリーゼは昔のか弱い守るべき小さな少女のままなのだ。


「ユキセ知ってたんじゃねえの?」

『……まぁ、危ないし実戦なんてしたことなさそうなエステリーゼちゃんもいるし。
勧めるのは無理かなって思ったんだよ』

「まあそうだけどよ、けどそれしか道がなさそうだしエステル回収していくか」

『そうだね……って、さっきから思ってたけど何故エステルなの?』

「エステリーゼ、短くしてエステル。楽だろ」

『なるほどねぇ、ユーリ君らしいや。
まぁどういう関係なのかはあの子の身なり的になんとなく分かった』


どうせまた騎士に追われる状況にでもなったのは明白である。
ルブランさんたち、こりゃ外にまで追ってくるだろうなぁ……思わず遠い目になる。

また騎士に見つかるのも嫌なので奥まで道を聞いているだろう彼女を探して二人と一匹で歩いた。


『おーいエステリーゼちゃーん』

「ユキセ。
………ちょっと休憩です。魔物が去るまでこんな場所で待ったりしませんから」

「あっそ、じゃあ二人で抜け道を行くことにするわ」

「え!?」


そう言って待たずにさっさと行こうとするユーリ君はいじめっ子だ。
ラピードに押されユーリに手を引っ張られなされるがままにされてると、エステリーゼも混乱しつつも慌てて追いかけてきた。


『……というか、私も?』

「行き先は一緒だしユキセを一人で行かすと爺さん婆さんたちに怒られちまいそうだしな。
そんな筋肉の無さそうな腕じゃ剣も振れねえだろ?」

『別に一人旅でも平気だけど……』

「じゃあ別にそこに俺らが増えてもいいだろ」

『……まぁいいんけどさ……なんだか巻き込まれそうな予感がするけどよろしくね、エステルちゃん』

「え、あ……はい!よろしくお願いしますユキセ!」


はじめてあだ名で呼ばれたのに気づいたエステリーゼ、いやエステルは二倍の笑顔で頷いた。
可愛い、控えめに言って、天使。
このためなら一緒についていってもお釣りは来る。

寧ろラピードがいるとはいえユーリと二人きりにさせるのも男女関係的に不安だな。
まぁエステルの身なり的に露出度も無くしっかりとしてるから本人の天然ぽさを除けば自己防衛能力は高そうだ。

さっきの大立ち回りにエステルが喜びながら話してくれて、いかにユーリがカッコよく、目立っていたかがよく分かった。

フレンが話していた通りだ、とニコニコ話すエステルに苦笑いしかできなかった。

ウン、ユーリラシイネ。
人のこと言えねえじゃねーかと軽くにらめばユーリは何も言わず視線を逸らした。



* * *



ついに入ったデイドン砦から西の方角にあるクオイの森。
手入れのされてない、滅多に人も来ないこの森は鬱蒼としていて葉が生茂り、あまり陽を差さないため全体的に暗い。

暗くて人が来ないということは、荒らす人間もいないので魔物の繁殖と群れのリーダー争いも起きやすいし、
強い魔物も出てくる可能性も大きくなる。

なのでプチプリやウルフのエンカウントが凄まじい量を超えた。
おかしいな、ダークボトルなんて誰も使ってないはずなのにこの量は繁殖期か?

自分は残念ながら戦いに参加することが出来ず見学してて、魔物と戦えるとのことで喜んでいたユーリも同じような敵ばかりいつしか飽きた表情をしていた。

けれどお陰でグミの元になる素材が沢山手に入った。
あとでレモングミを大量に作ろうかなとリュックの中の瓶にルンルンと詰め込む。
こんなにたくさんあればグミが食べ放題……ぐふふ。
魔物の素材も良いものが手に入れば武器や防具も作ってくれるので集めて損はないのである。


「この場所にある森って、まさかクオイの森……?」


はじめてだからか、それとも他の事情でか戦闘に身が入らない状態だったエステルは顔を若干青ざめていた。
名前は聞いたことがあるらしい。


「ご名答、よく知ってるな」

「クオイに踏み入る者、その身に呪い、ふりかかる、と本で読んだことが……」

『何の本なのそれ……』

「なるほど、それがお楽しみってわけか」


…………。
あれか、ぺらぺらめくって内容に興味関心が起きずくだらないなと思ってどこかへの出荷用のカゴに入れてしまったあの半分嘘なことしか書いてないコミカルホラーものの本か。
七不思議と書いて七つ以上載せちゃってるお粗末な感じの。

それともホラーものが趣味な人たちが怖い話を一冊の本にしたためたいわゆる同人誌みたいな本だろうか。
昔読んだ気はするけれど、それにもクオイについて何か書いてあった気が……。

ホラーより怖い魔物に襲われたからそれらは全く信じなかったけれど、今の城の中では語り草になってるのか……。


『……』

「どうした?ユキセももしかして怖いのか?」

『いや、自分の行動一つで相手に与える影響とは、かくも大きいとは思わなくて……』

「?」


戦闘中エステルの覚束ない動きはその本たちのせいだったのかもしれない。
それはなんだか申し訳ないことをした……。

しかし、この森を抜けなくちゃ砦の向こうには行けないので仕方なく薄暗い中をゆっくり進むことにした。
戦えるのは二人と一匹、自分はそのまま魔物から素材を毟り取る作業に没頭しながら森を進んだ。



* * *



エステルと行動して比較的すぐに分かったことがある。
彼女はエアルを直接、そして強制的かつ無意識に操れることができるのだ。
しかも大量に。
彼女の治癒術を受けて今まで感じたことがない感覚にこれは少し不味いと直感した。

エアルで満ちたこの世界で必要なはずの武醒魔導器無しで魔術として操れる。
どおりでエステルの持つ武醒魔導器が反応がないと思った。

最初は自分と同じ武醒魔導器が無くとも魔術が使える存在か、もう一つ武醒魔導器を持っているのか、
或いはクリティア族の血だと思ったのだが、後者に関しては彼女の家柄から完全否定される……。
たしか王家の人間は皆人間だったと記憶していたから。
ならば彼女と自分とではエアルの還元方法が違うのだろう。

ユーリは彼女が武醒魔導器無しでも魔術に秀でてる特異な少女、とまでは知っているだろうが……。
彼も普通に下町で暮らしていた人間だ、エアルを大量に消費していることまでは知らないだろう。

そしてその類い稀な能力は、異世界かつ特殊な方法でエアルを操り、
エアルを変換する自分に多大な悪影響をもたらしてしまうのだ。

先ほどいつのまにか腕に擦り傷があったためエステルに回復を施してもらった。
けれど良くなるよりも怪我した部分は治ることはなかった。

さらには体内にあるエアルとマナが無理やりにぐちゃぐちゃにされる感覚がした。
設計図をマジックペンでグチャグチャに書き乱される感じだ。
思わず自前のマナでエステルからのエアルを弾き返してしまった。

自分がエクスフィアと魔導器で、
無い頭脳でもなんとか確立させた小さなエアルとマナの変換のための術式を危うく崩される所だった。
あれをまた構成するには膨大な時間が掛かる。

マナも少ない環境では運営も管理も自分に掛かっているため、もしかしたら魔導器がキャパオーバーで暴走するかもしれない。
そしたらこの武醒魔導器はおじゃんである。

通常の回復魔法なら多少は何ともなかったが、強制的に操作させるエステルの術は危険だ。

肉体にダメージが入り気持ち悪さに思わず膝をつき、エステルには悪いがこちらに対しての使用は出来る限り止めてもらうように言った。
特異な体質だと言い訳したが……。

エステルの強力な回復魔法の恩恵を受けられないのは少々痛手だ。
まあよっぽど大きな怪我をしなければ良いだけだがゴリ押し気味な私に果たして無傷でいられるか。

……全体回復魔法を使われたらどうしたものか。
これは少し変換方法を一部改竄しないといけない。


「すみませんユキセ……役に立てなくて……」

『いや……、こんな体質だというのをヒーラーのエステルちゃんに言わなかったのが悪かったし。
こちらこそごめんね……。
代わりにユーリ君にやってあげて、じゃんじゃんバリバリ』

「じゃんじゃんバリバリ……ですか?」

『あれ、好戦的でどんどん魔物へ突っ込んでるでしょ。
いくらこんな森でもこんなに沢山の魔物とエンカウントしないよ……』


そういえば思い出した、あいつ戦闘狂だった。
彼が騎士だったとき凄い手合わせを強請られたことあったわ……。
遠い目をしながらまさか自分のことを言われてるとは知らないユーリが魔物がいないかキョロキョロしてるのを見ていた。
このままだとここら一帯の魔物狩り尽くしそうである。


「この森、本当に砦の向こうに抜けられるんですか?」

「抜けられなければ戻りゃいいって」

「……もし呪いでカエルやヘビになったりしたらどうしましょう」

「そうしたら、俺が責任もって面倒みてやるよ」

「面倒見る……、って……?」

「心配するな、子供の頃、カエルもヘビも飼ってたことがある。世話の仕方ばっちりだぜ」

『あ、なら生き餌の準備しないとね』

「お、ユキセも飼ったことあるのか?」

『鳴かない蛙から熱い所に住む魚まで何でもござれだったよ。
子供の頃に沢山飼育に挑戦したなぁ……』

「鳴かない蛙……?」

「熱い所に住む魚……?想像出来ねえな……」


まあ異世界の話だから理解できないだろう。
よくある色んなことに興味持っては失敗していた記憶がある。
愛玩(ペット)や家族目的、というよりも研究に近いだろうか。
どんな繁殖の仕方をするかなどに重きを置いていたから。
これはまだ実の両親が生きていた頃の話だ、懐かしい。


『大丈夫、蛇は飼ったことないけど知ってる人(インターネット)から何度も聞いたから(調べまくったから)
安心して、食糧には困らないよ』


森もあるし、ネズミにはこと欠かないだろうし。
あ、いざとなればゴk(ry)でも与えればいいだろう。
採取が大変であるが漁れば大漁に採取できるだろうし。
ま、そんなことにならないのが一番なんだけどね!


「わたし、ユーリやユキセがカエルやヘビになったら、
お世話する自信、ありません……よ?」

「じゃあ呪いに掛かる前にさっさとここを出るか」

『そうだね』


遠いためか微かに聞こえる機械音といつか聞いた何かの鳴き声を気にしつつも二人についていった。
ユーリがギガントモンスターに突っ込まないといいんだけれど……。



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