TOV長編。


私を見つけたのは小さな綺羅星。

賞金首




今年はハルル名産である花も大収穫だろうと思えるほど満開を維持しているハルルの元へと再び訪れた。

……アスピオの人も言っていたが樹という存在にとって咲くも枯れるも自然の摂理だ。

いくら魔導器と有機的結合したからといって樹は樹。
むしろこれによって寿命がどうにかならないかの不安はある。

通常よりも早い開花にリタはギョッと樹を凝視していた。


「げっ、なにこれ。もう満開の時期だっけ?」

「へへ〜ん、だから言ったじゃん。
僕らでよみがえらせたって」


エッグベアはみんなで倒したし、パナシーアボトルの材料の調達もみんなで行ったし、まぁ間違いではない。

エステルの特異な力がなければあのまま枯れてしまっていたわけだが。

調子に乗ったカロルにイラっときたらしいリタがカロルの頭に痛そうなチョップしたあと、街の奥へと走っていく。
頭を押さえながら涙目のカロルにこちらまで頭が痛く感じてきた。

追おうとしたが、ちょうど家から村長が出てきてこちらに驚くも笑顔で迎えてくれたので脚を止める。


「おお、皆さんお戻りですか。騎士様のおっしゃったとおりだ」

「あの……フレンは?」

「残念でしたな、入れ違いでして……」

「え〜、また〜」

『連続にもなるとこの旅終わるまで会わない気がしてきた……』

「それは勘弁してよ……」

「結界が直っていることには大変驚かれていましたよ」

「あの……どこに向かったか、わかりませんか」

「いえ……私にはなにも……。
ただ、もしもの時はと手紙をお預かりしています」


渡された手紙を開けるとそこには二枚の紙が入っていた。
そのうちの一枚に一同が騒然とした。

なんとまっくろすけ、ユーリの手配書とやらも同封されていたのである。
見覚えのある紙質に動悸が早まったのを感じたがまず見たのが、


『うわ、くっそ下手くそ!?』

「え、こ、これ手配書!?って、な、なんで?」

「ちょっと悪さが過ぎたかな」

『ユ、ユーリく……これ、フレン君激おこだよ……。
見て、この躊躇った跡のある皺部分……』

「これって……私のせい……」

「こりゃないだろ、たった5000ガルドって」

「脱獄にしては高すぎだよ!他にもなんかしたんじゃない!?」

「それで、手紙にはなんて?」


カロルが頭抱えながら周りに見られてないかキョロキョロして挙動不審すぎる。
というか、この主人公もとうとう指名手配者か……。

エステルが手紙を確認してる間この下手くそな手配書を凝視する。

元の世界でもこんなの出したらきっと上司に怒られるぞ……。
いったいどうしてこのクオリティでOK入った……誰だ描いたの……。

自分が男の姿で指名手配されてたときはへた……味のあるテイストは変わってはいないが、
……たしか若干、いやキラキラしてた……某薔薇漫画のごとく……。

テイストは同じなのに、キラキラさせたのは何故なのか。
その日の描いたやつの気分か。
それはそれで脚色にもほどがあったが。
文化祭のポスターじゃないんだぞ……?


『……まあいいか』

「え?」

『あ、いや、なんでもない。
この絵でこれじゃ本人に気付かないなーって……』

「ほんとだね、誰が描いたんだろ?」

『よっぽど絵心の……ある?
人だったんだね……で、手紙は?』

「“僕はノール港に行く。早く追いついてこい”です。
暗殺者についても手紙に書いてありました」

『さっすがー。
てことはフレン君の隊も魔核泥棒の黒幕を探してる可能性があるわけだ。
で、ユーリ君は?』

「樹を見に行ったリタを迎えに行きました」

「そんなにその手配書に夢中だったんだね……」

『あ、あはは……』


あまりの衝撃によって彼方まで意識が飛んで似たような絵心ある奴って世界越えてもいるんだなと思ってたところです。

しかし脱獄に貴族誘拐も含まれてるにしては小遣い稼ぎほどの金額での手配書……。
またユーリの手配書をガン見していると町の人にも迷惑なほど大きな声が聞こえた。
あまりにも大きな声なので自分だけだが耳と心臓に悪い。


「エステリーゼ様ぁーーー!!」

「うわっ!なに!?だれ大きな声出したの!?」

『うっさ!
耳いった……てかうわぁ、面倒な人たち来ちゃった。
てか、やっとあの森越えられたんだね……』


もう一日以上経ってるよ?遅過ぎない?
デイドン砦へ迂回した方が早かったんじゃない?

いろいろ突っ込みどころが満載だが一番先に立ち向かってそうなユーリがいないため、今回は私が矢面に立つことになる。

うーん、さすがに私相手に剣を向けてくるような付き合いはしてない、はず。
これでもルブラン、アデコール、ボッコスら帝都での付き合いは至って普通に接してきた。

誰とは言わないが、市民にボコボコにされた時はそれとなく手当てをしているし、
世間話もよくする。

私は市民街で部屋を借りている。
税は働いて滞りなく納めているし、帝都の外に出る際はルブランに税をまとめて後払いできるようにお願いしたら
なんとか工面してもらえたくらいには信頼を獲得している。

シュヴァーン隊の他にも顔見知りはいるが、話しやすいのは彼らのほうだ。
貴族外からの騎士だからだろうか。
貴族ならではの少々鼻につくものが無いのが良い。

とはいえ、これから少し嫌われる勇気は必要か。
エステルとカロルがオロオロとしている中すっと前に出る。


「エステリーゼ様!こんなところにおられましたか!!お怪我はありませんか?ユキセ殿まで!あのユーリにここまで連れまわされたのですね!」

『こんにちはルブラン隊長、アデコールさんボッコスさん』

「ユキセ……」


不安そうな表情でエステルがこちらを見る。
ルブラン達と顔見知りと知って身柄をそのまま渡されてしまわないか不安なのだろう。

しかし私は奇しくも似たような状況にあったことが一度や二度あるので心配無用である。

あれでしょ、ユーリが戻ってくるまで時間稼ぎすればいいんでしょ。
あとはユーリに責任を擦りつける、と……。

エステルの手を握って大丈夫、落ち着いてと言い聞かせて
恭しく帝都でのいつものようにルブラン部隊へ少し憂いた表情で挨拶する。


『そちらの用件は分かっております。
この紙の……手配されたユーリとエステリーゼ様の件ですね?』

「そうです!あやつは……ユーリの奴はどこに?」

『所用で離れておりますがすぐにこちらに向かってくるかと』

「そうですか、それではユキセ殿がエステリーゼ様のお側で守ってくださったのですな、感謝いたします」

『いえいえ、それほどでも。
しかし残念ながらルブラン隊長、エステリーゼ様をそちらへ渡すことができないのです。

エステリーゼ様から直接の護衛を任されたものでして……。
騎士フレンからもお墨付きをもらっております(大嘘)』

「な、なんですとぉなのだ!?」

「それは誠であ〜るか!?」

「本気のおつもりで?
こちらにはユキセ殿の腕を推し量れるものはなく、なによりも一般の者だけで守りきるとなど……、もしやその子供までもというわけですか?」

『あら、見たことが無いというだけで判断を見誤るのは良くないですよ?

この子だって立派な戦力です。
ま、紆余曲折あってあなた方シュヴァーン隊の方にエステリーゼ様は渡すことは出来ません。

あと……今は個人的に嫌です♪
なんなら力づくで来てくださいな♪
……出来るものならね』


ニッコリ笑いながら、柄に手を添えたまま戦闘体制に入る。
街では一度も楯突いたことのない善良な市民であった私の変わりようにアデコールとボッコスが慌てふためく。


「ど、どうしてしまったのだー!?」

「ユキセ殿!?も、もしやユーリに唆されたのであーるかぁ!?」

『あっはははは!
……まさか私がやすやすと誰かに誑かられるほど平和ボケしちゃいませんって』

「ユキセ殿……!?」


ルブランの真剣な表情と余裕綽々の私。
ここに善悪を決めるとするならば悪は私の方だろう。
剣を交わったとしてルブランが勝てる要素は彼が動揺の表情を隠そうにも隠せない時点で無いのだが、
このまま動けば少なからずは彼も刃を交える覚悟はあるだろう。

しかし真剣を交えるのは今で無くても良いだろう。
背後からの気配で剣を鞘に戻して手をひらひらさせた。


『まぁ、それは私の役目では無いと思うので。
あとはなんとかしてよ、ユーリ君』

「ずいぶんと大根役者してんなユキセ。
デコボコもやっと追いついたのかよ」


得物から手を離してしばらく様子を見ていたであろうユーリとリタも加わり、指名手配者が現れたことでデコボココンビも隊長もやんややんやのぎゃいぎゃいと大騒ぎ。
ほんと愉快な隊だこと。
あんたの敬語気持ち悪かったとリタにまで言われた、ひでぇ。


「ここであったが100年め、ユーリ・ローウェル!
エステリーゼ様だけではなく、ユキセ殿にまで……そこになお〜れぇ〜!!」

『いや、私はいつも通りだし』

「今回は馬鹿にしつこいな」

「昔からのよしみとはいえ、今日こそは容赦せんぞ!」

「ユーリとユキセは悪くありません!私が連れ出すように頼んだのです!」

「ええい、おのれ、ユーリ!
エステリーゼ様までも脅迫しているのだな!!」

「違います!これは私の意志です!
必ず戻りますから、あと少し自由にさせてください!」

「それはなりませんぞ!我々とお戻りください!」

『ほーら、儚い女の子の小さな願いですよ?
いつも見える外の世界は窓からだけ……まるで籠の中の小鳥のように。

籠の中から見える世界ってどれほど狭いんでしょうね。
羽ばたく羽は持っているのに、死ぬまでその籠の中でしか生きられない……。

ルブラン隊長、こういうお話お好きではなかったですか?
この手の話の少女がどうなったか、お売りした本をお読みならご存知ですよね?』

「ぐ、ぐぬぬぅ……っ!
そ、その手には乗りませんぞ!致し方ない!
どうせ罪人も捕らえるのだから……」


ユーリを物理で倒してエステルを返してもらおうという案らしい。
ルブランの命令によりアデコールとボッコスも戦闘体勢に入る。
これは武器を下ろすように請うても聞いてはくれないか。

この人、ユーリを倒せば自然とエステルも私も元に戻るとでも思ってるのかな。
私、よく結界の外に出てるいち一市民いち旅人なんだけれど。


「これでお前たちの自由も今日限り!」

「我々騎士団究極の戦闘術、オーバーリミッツで行くであ〜る!」

「勝手に盗むなよ。騎士団のもんじゃねぇだろ」

「黙れであ〜る!」

「オーバーリミッツ……?」

「戦闘時の能力を上げる技だよ。どうやるんだっけか。ど忘れしちまったな」

「バカめ、所詮庶民だな」

『え、嘘……ボッコスさんそんな選民意識あったんですか?
……ショックです』

「あ、い、いやこれは……」

「わ、私が教えてやるであ〜る!
だが、それがわかった時、お前たちは死の急行馬車に乗っているであ〜る!!」


と、大口を叩いたにも関わらず、というか相も変わらずデコボココンビはユーリに攻撃を当てることもできず、むしろユーリにオーバーリミッツを決められボロボロに負けていた。

……うん、下町で見るいつもの光景だ。
今回ばかりは治療しないけど。
いや、ちらっとこちら見られてもしないから。

しかしながら、オーバーリミッツだなんて凄い久しぶりに聞いた気がする。
昔はユニゾンアタック……とやらでエクスフィアの力と合わせてコンボさせてたような。

大昔には、みんながエクスフィアを持っていたからその力を合わせてユニゾンアタックが出来たけれど、
エクスフィア持ってるのは私だけだし、
してくれる人は居ないし知ってる人はいないし此処じゃ世界も違うし……。

まだまだ鍛錬を重ねてはいるが、オーバーリミッツの技法は少し疲れるのであまり使用していないのが現状だ。

デコボコのお二人が戦闘中わざわざ丁寧に話してくれたおかげでやり方を思い出させてくれた。
オーバーリミッツ……せっかくだから今度から使うか。


「ユーリ、す、すごいです」

「ええい情けなーいっ!」


ルブランが喝を入れるもとうに二人は動けないままである。
部下の始末も付けられないたいうのは小隊長という役職なだけあって情けない……。

いや、名前だけで全く出てこない上の上司が悪いのか?
溜め息が出そうになったがリタの周りでエアルが揺らめいてるのを感じてギョッとした。


「ちょ、リタ……」

『あの、え、リタさん……!?』

「戻らないって言ってんだから、さっさと消えなさいよっ!!」


まるで漫画のようにルブラン隊が空の向こうへと吹っ飛ばされていくのを見て、とりあえず死んでませんようにとだけ手を合わせて祈った。

そしてこんな時にさらに嗅ぎたくない臭いが。
血生臭い臭いに自分も魔術をぶっ放してしまおうかと考えたがこれ以上悪目立ちするのもアレである。

抑えてエステルが高台にいる怪しい男たちに気づいてこちらも逃げる準備をした。


「やっぱり俺らも狙われてるんだな」

「今度はなに!」

「ど、どういうこと?」

「話はあとだ!カロル、ノール港ってのはどっちだ?」

「え、あ、西だよ!西!エフミドの丘を越えた先にカプワ・ノールはあるんだ」

『エフミド……』


瞬時に思い出すのはあの海と丘の上。
今はそれを思い出して思い浸るほど暇じゃない。

エステルはでも、と脚を止める。
リタがエステルを引っ張るがここにいればいつかフレンが戻るかもしれないとか、ルブランたちの心配を思っているのだろう。
戸惑った表情をしていた。

しかしここらに赤眼の連中がいる限りそれはないだろう。
この場所で戦闘にでもなれば住民への被害が出る可能性が出てくる。
フレンはそういったことは嫌がる筈だ。

そしてここに留まる限り、城へ連れ戻される可能性も高い。
ハルルの花弁が風に乗って散るなか、リタのハッキリとした声が響く。


「ほら、さっさと行く」

「でも、私……」

「……あ〜っ!!決めなさい。
本当にしたいのはどっち?旅を続けるのか、帰るのか」

「……今は、旅を続けます」

「賢明な選択ね、あの手の大人は懇願したってわかってくれないのよ」

「騎士団心得ひと〜つ!!“その剣で市民を守る”そうだったよなぁ?」

『騎士として今すべきことは何か?
ホントそこんとこよく考えてくださいね!
これ餞別のグミです、今回だけですよ!』

「……その通りっ!!いくぞ騎士団の意地を見せよ!!」

「……ごめんなさい」


ルブラン隊が果敢に向かっていくのを見ていたエステルの手を握り、あの人たちは大丈夫だと安心させる。
ああいう人たちは本当に良い意味でしぶといから。

ああでも、ほんとう、悔しいほどに素直な部下持ってるのにそれを活かせない上司がいるのが惜しい。
敢えてしているのか?
いや、そんなこと考える必要も権利も私にはないのだが……。

……今さら何を後悔しようとしてるのか。
後悔できる時間すら私に与えられている訳はないというのに。



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