パルマコスタ



シルヴァラント編




お互いの目的地であるパルマコスタまで着くのに一日以上は掛かるという。

船という逃げ場のない空間でも警戒を怠らず、
リフィルには少し避けられているようにも思えた。
甲板にも静かに監視するかのようにクラトスさんが壁に寄りかかって佇んでいた。
けれど、さほどリフィルほどではない。

800年も失敗し続けた世界再生の旅なのだ。
それほど危険なのだから仕方ないだろう。
リフィル自身の体調が悪くとも三人を呼び寄せて自分から引き離そうとするのも。
若干あからさまなのは少々、キツい……がこちらも情報を開示していない身なので仕方ない。


『(仕方ないとは思うけれどさぁ……)』


むっ、て来るのも仕方ないだろう。
なんであそこまでされるかは十二分に理解出来るのだが、いや、仕方ないか。

別にあんだけ強そうな護衛がいるのにたった一人だけで得もしない世界再生の邪魔なんてするわけないだろう。
しかしこちらが一人だと限らない、現に暗殺者が襲いにきたらしいし。
くそぅ、恨むぞその暗殺者。

まぁ他の旅人に比べれば自分はディザイアンと密接な関わりが深いのもあるだろう。
ディザイアンの防具奪い取ったりもしている。
彼らはまだ旅を始めたばかりで見ず知らずのディザイアンの基地に突っ込む馬鹿が同じ船に乗ってみろ、その警戒心は正しい。
結局は自業自得、身から出た錆である。

それに今回の神子が失敗すれば、クルシスの輝石を持つ神子が生まれるまであとなん十年と待たなければいけなくなるか……。
それに彼女が死んでしまったら自分は恐らく一生、元の世界には帰れない、と思う。
それだけはなんとしても避けたい。

けれど元の物語から逸れたらどうなるかなど分からないし、物語もだいたいしか分からない分こちらとしても彼らと関わるのも避けたい。
また会うことになってしまったがパルマコスタで別れれば良いだろう。

とりあえず故郷であることを理由に離れればいいかな。
そう思いながら荷物の上に座り、夜風に当たった。

……ここまで悪くなるのはやっぱり横にならなかったからかな。
リフィルほどではないが揺れる船は酔いで気分が悪くなる。
仮眠でも取った方が良さそうかもしれない。



* * *



「ソウマ」


夜、三日月が孤独な海を小さく照らすなかなかなか寝付けなくて甲板に出ていた自分に話しかけて来た。


『お、ついにロイド君も酔った?』

「いや……そうじゃないんだけどさ。
俺、コレットに無理言って世界再生の旅に参加したんだ。
けれどよ……本当にこれで良かったのか、ちょっとわからなくなっちまって」


珍しく弱気な彼の声に振り向く。
大人組に対しての不満も若干含ませて言ってしまったが、彼は気づかなかったようだ。
昼間があんなに明るかったのは抱え込んでいるのを知られたくないからか。
あのディザイアンの基地で逃げているなか、隠れながら休憩しているときに、ことの始まりや訳はあらかた聞いていた。

ロイドがポツポツと話す。
まずは聖堂で見た祭司長の死、ディザイアンは人を簡単に殺す存在だった。
そして禁忌と言われた人間牧場に侵入したこと。
それがバレて、ディザイアンによって村が半壊し更に知人を一人犠牲にしてしまったこと。

ディザイアンに何かしたと聞いてはいたがまさか牧場に突っ込んでいたとは思いもしなかった。
シルヴァラントベースに誘拐されたりしていたが……。
自分以外にもそんな奴がいたとは。
アグレッシブ過ぎるぜ主人公。

しかしそれのせいで世話になっていたディザイアンと不可侵条約を結んでいたその村から追放された。
ディザイアンが処刑やどうのと言っていたのを聞いていたからだ、よほどのことをしない限りそんな目には合わないだろう。

自分は友達の友達を助けただけだった。
自分の正義のもとに正しいと思ったことをしたはずだった。
けれど結果的に犠牲者を出してしまったことをロイドは悔やんでいた。
それ故に自分がしたことが本当に正しいことだったのか分からないのだろう。


『結構重い話だけど……よく知り合ったばかりの俺なんかに話そうと思ったな』

「だってそりゃあソウマ、困ってる人を見捨てるようなやつじゃないって分かってるし。
俺もそう考えたい方だし。
だからさ」


思ったよりも最初からこちらに対しての好感度が高いのは彼が攻略王と呼ばれるからだろうか……?
それとも人に対して信じやすいというか、善人ぶった人間も信じやすい質(たち)なのか……。


『そっか……。
なら、ロイド君はその未来が見えてたとして、どのみち助からないなら、
その人を助けなければ良かったって思う?』

「なっ、そんなわけはないけど……!
結果が助からなきゃ俺がやったことは無駄なのかな……って思っちまって……」

『なるほど。
ロイド君……この世界は牧場に連れ込まれればそこで人としての尊厳を一切失い、一生ボロ雑巾のように扱われる。
誰も彼らを助けようともせず、自分は関係ないからと親しい隣人でさえ突き放す世の中だ。

けれどロイド君は誰も出来なかったそれをやろうとした。
それは何かしらロイド君に意味があるんじゃないか?

無謀さは否めないけれど、その代償は……大きかったけれど、次からはそうならなければいい。
今の君には仲間もいるんだから。

その死を無駄にしないために、次は絶対助けられるように。
今はそれでいいんだと思うよ』

「えっと、つまりは……」

『……あー、要はこの旅で自分がしたことを証明するんだよ。
自分が許せないなら、旅の中で自分がしたことは正しかったんだって。

世界再生の旅。なら、自分の行いも再生に必要なことだったんだってね。
その上で人助けすりゃ誰も文句は言わないさ』

「……そうかな」

『ドワーフの誓い、だっけ?
あれにもあるんだろう?困っている人がいたら必ず手を差し伸べよう!ってさ。
だから助けたんだろ?

みんながみんな大変な世の中だし。
もしロイド君がきっかけで皆が手を差し伸べることが出来たらそれはきっと、素敵なことだと思うよ』

「……そうだな。俺、この旅で証明して見せる。
ソウマ、ありがとな!」

『結果は君に掛かってる、けれど無理はしないでね。
一人で突き進まずに仲間にも頼りなよ』

「ああ!」


幾分か元気の出たロイドにもう寝なよと告げる。
自分はまだ寝れる気配じゃないから断った。
この小さな船では寝れる場所も少ないし何人かは床で寝る羽目になる。
簡易ベッドなどはもちろん女性陣に譲っている。
男になると、多少の硬い床でも寝心地は悪いが寝れるようになったので骨や筋肉の発達が違うとこうも楽なのかと不思議に思った。

いつ魔物が出てくるかは分からないので傭兵であるクラトスが寝ずの番を買って出ていた。
今は船の周りを見渡せる船の一番上で帆を支える柱を背に座っている。
自分も寝ないと上から声が掛かるだろう。


『(……そう、今はそれでいい。
それをしたことによってまた何を喪うかはまだ考えなくていいんだよ)』


他人事のように心の内に呟くが、こんな自分でも友達だと優しく微笑む小さな少女の顔が目蓋の裏から消えなかった。

確かに自分が元の世界に戻る為には彼女が世界再生を遂げてもらわないといけない。

けれどその後は、何も見ないふりしてはいサヨナラで終わって……果たして良いのだろうか?
それを自分はこの世界の一人としてその瞬間を見届けるだけで良いのだろうか。

懐にある赤い手帳のある場所に思わず手を寄せる。

ロイドが持っている正義はコレットや仲間を守るためにあるのなら、
自分が持っている正義とは、誰へと向けたものなのになるのだろうか?

空を見上げれば小さな星星が煌々とその命の残骸を輝かせている。
……どうであれ、自分は探し人を見つけるだけだ。
より良い結果であるために、今日はもう意地でも目を瞑ろう。



* * *




どの町よりも賑わいを見せるシルヴァラントの中でも随一の規模と共に独自の自治軍隊を持つここパルマコスタ。

大きな魔物に出会うこともなく無事に港へと到着することが出来た。
周りには驚かれたな、なんせ他よりも小さな船だ。
魔物が出るとさえ言われたのに何も出会わなかったのは奇跡か。
マックスがホッと胸をなで下ろすのを見て船から空を悠々と飛ぶカモメを見た。


「ありがとうマックス、あんたはこれからどうするんだ?」

「パルマコスタの軍用船にでも護衛を頼むよ……じゃあ、元気で」

『マックスさん。護衛用の足しになるかは分からないけれど……コレ』

「これは……旅のお守り?」

『ライラさんの為とはいえ、強引に押したのもこちらだし……魔除けにはなるかなって。
売ればどれほどになるかは分からないけれど……』

「あはは、ありがとう。そっちも気をつけて」

「無理強いして悪かったな、気をつけて帰れよ」


マックスへ別れを告げて港を歩く。
何処かへ行こうとするノイシュに首輪でもつけようかというくらいに逃げ回るため、
ロイドが馬小屋まで連れて行こうとするのだがなかなか動こうとせず、周りも魔物か?とちらちらと見る目が痛い。

しかし、自分が名前を呼ぶと素直についてくるので飼い主であるロイドはがっくりと肩を落とした。

ロイドよりもノイシュと過ごす時間は少ないはずなのにこの懐かれようはいったい……。
特に悪い気はしないのでまあいいかと思い考えるのをやめて馬小屋へ誘導すれば嫌々ながらもそこに留まってくれた。


『ここではどうするんですか?』

「パルマコスタでは神子の古文書があると聞いている。ソウマは何か聞いてはいないか?」

『古文書……ドア市長に聞けば分かるかもしれません。すみませんお力になれず』

「いや、構わない。それと……すまなかったな」

『え?えーと、』

「船での件だ。不安な思いをさせただろう」


突然の思わぬ謝罪にぽかんとする。
まさか質問されるとは思わなくて、しかし自分は答えが分からずに町長に聞けというくらいしか答える術がないので、
一に謝罪二に謝罪の典型的日本人としてはこちらが謝りたいのだが唐突な謝罪に思わずぽかんとした。

あのリフィルまで少し意外そうな表情……けれど彼女もその件に関しての謝罪をされた。


「弟を助けてくれたのはあなたなのに、辛い思いをさせてしまったわね」

『えっ、あの……そんな事言われるようなことは……』


それに思わず手と首をぎこちなくもブンブン振りながらこちらも相応の事をしでかして、十分に怪しいから仕方ないことだと主張した。
そうだ自分はディザイアンのスパイかと思われるような事をしたんだ。けれどそんなに顔に出てたかな……酔いで多少気分悪くなってたけど……。


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