ロイド宅



シルヴァラント編



あれが、魔術と言われるものか。
なんて綺麗な光なのだろう……。

エクスフィアがあれば潜在能力を引き出すことができ、
魔術を扱える様になる人間もごく僅かにいるらしい。
根深い差別があるとはいえ今の人間でさえどこでエルフの祖先がいたかも分かったものでは無いだろう。

それはさておき、自分もあのような光を出すことが出来やしないだろうか。
こう、異世界特典的な位置で。

自分に今の段階で解っている特典といえば、
一つは先ほどのようにこの世界の言語を理解できることだろう。
なんとこちらが勉強せずとも、この言語を話せるし読める。
が、口では日本語を話してるつもりなので口元は隠すしかなかった。そこが面倒だ。
文字も書ける訳では無いので一から習った。
たぶんロイドよりは書ける。

第二の特典は悲しいかな、この便利しかし厄介な男の姿だろう。
足りない筋力を補えるし顔は二枚目ときた。
可愛いよりのアーモンドアイで世の奥方や女性を何人トゥンクさせてきたか……。
笑顔を振りまけば物を買う際に女性店員限定でおまけを付けてくれる。
あれ?そんなにイケメンではないってコト……?

この特典で要らないものといえば、股のブツぐらいだろう。
本当に精神的にキたのはお花畑に行く際に嫌でもブツを手に取り的を定めなければいけないことだろう。
そして男は見られても気にするどころか他者のサイズまで確認したいものなのかジロジロと見てくるのだ。
なんという羞恥、なんという死にたさ。
……いや、下の話はこれまでにしよう。

こんな体でも動かす肉体としては申し分無いほどなのだ。
女の体では難しいであろう長時間の移動や、戦闘における体の動かし方は半分ほどは旅の中でゲームの知識を基に作ったものもある。
もう半分は教わって身につけたものだ。

なんだかんだあの技の動きは人間の動きで作られているので、
そこにこの肉体の器用さを加えたらいっぱしの術技となる。
まだエクスフィアの力を試せていないが、衝撃波を出せたら技としては完璧だろう。
これからの鍛錬が楽しみだ。

こうして特典を余すことなく時に乱暴に扱いながら、この世界に適応しつつある。
もう無力な子供のままではいたくないのだ。



* * *




朝、小鳥のさえずりで起きて両手に体重をかけながら身体を起こす。
ハッとして右手を見れば何も異常が見当たらない右腕だった。

そういえば魔法で治してもらったんだった。
生で魔法見たんだった。

何故あの人は人間の筈なのに魔法を扱えるんだろう……。
総合すれば原作の半分しか知らない自分にはその理由も、それこそ他人のいずれは治ってしまうような痣をわざわざ魔力を消費してまで治す理由を知らなかった。

かなり腕の立つ人だ、あれくらいの消費など何ともないのは分かる。
でも敵かもしれない自分のような異様な人間、自分から関わらない方だと思ってたから驚いたし、……怖いと思っていたが安心出来る目だった。
まぁ怖さと警戒心が出てしまうのはあの声によるのだが。

寡黙に見えて実は優しいのかもしれない。
まぁ、恐らくもう会うことはないだろうけれど……。



* * *



「なぁソウマ!」


朝ご飯を食べた後外でぷらぷらしているとロイドに呼ばれた。


「ソウマの旅の目的は何なんだ?」

『へ、聞いてどうすんの?』

「いや、あのさ、昨日助けてもらったから何か手伝えたらなって……」


人の良さそうな笑顔でこちらを向くロイド。別に気にしなくても自分もロイドの仲間に助けてもらったんだし、お相子で良いと思うんだけれど彼は嫌らしい。
本当に主人公らしい主人公だ。
相手を思う心は人一倍どころか二倍はある。


『……俺の目的は昨日ちょろっと話したけど人探し』

「じゃあ……」

『けどこれは自分一人でするし誰かに手を貸してもらう程のものでもないんだ。
だから悪いけど手伝いなんて必要ない』


確かに彼らに助けを乞えば今よりも楽だろう。
何処かに囚われていたら知恵も貸してくれるかもしれない。
けれど自分はこの世界に存在しなくていい者だ。イレギュラーがこの世界の主人公に関わりを持つなんて恐ろしい。

本来ならもっとつっけんどんに返すが目の前の彼の人柄に当てられてかあまり冷たくは出来なかった。
だから柔らかく、しかしきっぱりと断わる。


「そっか……そこまで言うなら無理には出来ないな」

『悪いな、またどこかで何かあったら言うよ』


断っておきながら次回まで取っておく……。
セコいとは言わない。
貰えるものしてくれる事ならもらっておいて損はない、ただ貰う時期を延長させただけ。
主人公なら多少無茶でもやってくれるだろうし。

話を終えて二人でアイテムショップ見たりして、占い屋の方に行こうとするとやんわり止められた。
ヤブだったらしい。
なんだ、占ってもらおうと思ったのに。


「あっソウマさん!」


武器を見てくるとロイドと別れ宿に戻るところに金髪の女の子がひょこっと現れた。
この子だけかと思ったが銀髪の女性とジーニアスも一緒だった。


「あ!えっとあの時は……」


気恥ずかしいのかもじもじと指を弄りながら小さな声でありがとう、と呟くジーニアス。
どう致しましてとぽんぽん頭を優しく叩いたら擽ったそうにしていたのですぐに離した。
それからじっとこちらを見る視線を感じて、ジーニアスの姉のリフィルさんだったか、不思議そうな表情をしていた。


『……あの?』

「あ、あらごめんなさい。
つい昔会った人のこと思い出してしまって……」


少し興味を持って聞いてみると苦笑しながらその話をしてくれた。
姿は全く違うのだけれどなんでも撫でた時の表情が印象的に残っていたようでその人は排他的な村には滅多に来ない外の人間だったらしい。
そして風の様にすぐに去っていってしまったという。


『会えると良いですね』

「ええ、そうね」

「でもそんな人いたかなぁ。イセリアって人なんて行商人か司祭とかしか滅多に来ないよね」

「五年も昔のことだし、滞在したのも僅かな時よ。
忘れてしまっても無理ないわ」

「でもこの旅で会えたら……、私一度お話してみたいなぁ」


三人ののんびりとした話を聞いて平和だなぁと感じた。
物語の外の知らない会話。
外の人間なら旅人だろうか。しかし自分はこの世界に来てから一年半ほどしかいない。
だからロイド達の故郷も知らないしまだ行ったこともない。
まぁ気のせいだろうと特に気にしないことにした。



* * *



主人公一行と別れて、隠した荷物から出した服に着替えて自分は早速イセリアの森へと向かった。
そういえば口元を隠すのを忘れていたな……もう会わないだろうからいいか。
一行はこれから封印の解放とやらに行くようだ、邪魔しない方がお互いのためだろう。

手の中には一つの綺麗な宝石の欠片がある。
これはディザイアンが付けていたエクスフィアだが少し欠けてしまった物だ。
鎧と一緒にちょっとちょろまかしたのだがその際に欠けてしまったようだ。

エクスフィアは身体能力を劇的に強化させるこの旅には欠かせない重要アイテムだが、
あいにくこの欠けたものしかないし、抑制鉱石とやらもないしどういった見た目なのかもあまり分からない。
皆が付けるようなあの台座が抑制鉱石で良いんだろうか?

なので噂で聞いた職人に分けてもらえないかとこの森に来たのだ。
旅先で見つけた価値のありそうな物は幾つか持ってるし、それで交渉しようかと思ってる。

近くにイセリアの牧場もあるが、今は駄目だ。気になるがまた捕まってしまっては元も子もない。
……今は出来ることだけをしよう。


木々が生い茂って家も蔦に侵食されかけた二階建ての木の家。誰のかは分からないが墓もある。
器用に斧を振るって薪を割る低身長の男性がいた。
あれがドワーフ族か。

金の採掘や加工の腕を持ち、性格の単純さや気難しさから他種族とはあまり交流のない……それがドワーフ族というのが自分の中の勝手なイメージだけれど。
こちらでは本くらいしかドワーフの話を聞かないので会うのはこれがはじめてだ。


『すいません』


斧が薪を割り、割った薪が切り株から落ちる音が止む。
腰位の高さの初老がこちらを見やる。
物珍しさとぶっきらぼうな口調が印象のドワーフだった。
あまり外部から話しかけられることはないのだろう珍妙な目で見られた。


「おう、なんだおめぇさんは」

『作業中にごめんなさい。旅の者ですが頼みごとがあって来ました』

「そうかい。気にすんな、そろそろ休憩しようと思った所だ。
まあ家に入りな、話を聞くからよ」


すぐに追い払われるかと思ったが、意外と親切だった。
彼に誘われて趣味の良いウッドハウスへと向かった。

家の中は流石と言うべきか、森の中なのに調度品がちゃんと揃っていた。
キッチンも全て手作りなのだろう、どこか人工的ではない使い古された温もりがあった。

ダイクというドワーフに例のエクスフィアを見せた。
まず欠けてしまった物でも使えるかということだけれど、やはり欠けてないものよりは遥かに力は劣ってしまうほど使い物にはならないらしい。

でもないよりはマシだし、ディザイアンから再び奪い取るにしてもリスクが高い。

抑制鉱石はたまたま持っていた中に紛れ込んでいてそれを使うことにしたが、特別な紋様を描くために一日ほど掛かってしまうという。

それなら近くの村に泊まろうと思ったが、即座に止めておけと言われた。
つい最近その村にディザイアンが来たらしい。それ以来外部の人間には厳しいとか。
だからこの家に泊まれと言われ、素直にお言葉に甘えさせて貰った。


家の外を見させてもらい、墓へと向かう。
義理息子の母親の墓だという。
ディザイアンに襲われたらしく、息子を守る為に命を落としたそうだ。
墓の前に膝を付き、両手を合わせた。
命を掛けて自分の子供を守った勇気と想う心はきっとその子にも伝わっていr

ドゴッ

「クゥーン」

『〜〜〜〜ッ!!』


何か巨大な何かに背後から奇襲され、墓に顔面から激突した。
衝撃からの悶えに声にならない悲鳴をあげた。

何だ!ディザイアンか!?モンスターか!?

痛みに少し涙目になりつつも後ろを向いた後に見覚えのあるフォルムと長い耳に犯人は一瞬で分かった。


『ノイシュ!?お前ロイド君達と一緒じゃなかったの!?』

「クゥーン」


腹に鼻を押し付けて甘えてくるデカイ犬(もどき)。ロイドが犬と言い張るからきっと犬なんだろう。
この世界限定の。
いや、敵じゃないだけ遥かにマシだけど何で此処に来てるんだ。
ノイシュに帰省本能なんてあるのか?そもそも離れてていいのか?


「おう、ノイシュに懐かれるとは珍しいもんを見たな。
知り合いだったのか?」

『ええ、旅の途中で会った時からこうで……』

「ほう!じゃあロイドにも会ったか?」

『てことは……。息子さんってロイド君だったんですね』

「おうよ、ったくあいつがコレットちゃんに迷惑掛けてないか心配なんだ」


今や数少ないドワーフ族に育てられた人間ってそうそういないだろう。

変わってるよなぁ。
まあ主人公だからか。

ん?一般と何かしら特異な部分がないと主人公とは言えないのか?
とりあえずロイド達は神子一行と共に元気にやってると伝えれば少しばかり安心した笑顔を向けた。
世界再生の旅はそれだけ危険だ、なにせ約800年もの間再生は成功していない。
義が付こうとたった一人の息子だ。

……二人の間にあるその確かな絆に少し羨ましいと思ったのは気のせいだろう。



既に陽が暮れて辺りが真っ暗になってきた。
ダイクさん、流石男手一つでロイドを育ててきただけはある。
手先の器用さが料理にまで及んでいるとは思わなかった。

肉を付けろと言わんばかりの肉料理だったが良い塩梅の味付けをした鶏肉の煮物が特に口にあってどんどん口に入る。
今日ばかりは別に構わないだろう、基本不味い肉や保存食ばかりなため久しぶりのご馳走だ。


そしてノイシュもそばでご飯にありついていた。
ここが安全な場所と認識してるのだろう、食べた後はお散歩とばかりに一匹で外へ出掛けていった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -