シルヴァラントベース



シルヴァラント編


今着ているこのディザイアンの服は山に篭っていた時にたまたまいたディザイアンの集団から逸れた一人を仕留めた際にひん剥いた奴だ。
殺してはいなかったが誰にも見つからなければ今頃は白骨化していることだろう。
無事見つかってると良いがどうだろう……無駄に殺人犯にはなりたくないから見つかってるといいなぁ。

出来るだけそれを考えずに厳重に閉めらた出入り口を奴らが出ていく隙を見て入った。
先にこちらの目的を果たしてから救助に向かおう。

そう、ここまでは良かった。
ここまでは良かったんだ。



* * *



『っくそ……!!』


ばたばたと辺りが騒いでいる中必死に廊下を走る。
後ろにはディザイアンが数人追いかけてきていた。
ディザイアンがディザイアンを追いかける、なんてシュールな光景なんだろうか。
おここのディザイアンは他と色合いが違うから同じ物を付けてるはずなので何も無ければバレるはずは無かった。

既に有事なのに現実逃避しかけていた。
宛もなく走り続けているため、挟み撃ちにあったら危険だろう。
仕方ないと思い一緒にいた赤い少年に叫んだ。


『ロイド君!!此処は俺が引きつけるから武器を探せ!』


少し後ろを走っていた少年、ロイドは息を吐きながら驚愕の顔を浮かべ同じく叫んだ。
自分と違って、主人公であるロイドはこれだけ走っても息一つついていない。
やはり身体能力すら飛躍的にアップできるエクスフィアをどこかで調達した方が良さそうだ。


「何言ってんだよ!そんなこと出来る訳がないだろ!」

『武器を持たない人間を守りながらは辛いっ!俺が、心配なら、武器をどこかで持って来いってこと!!』


これ以上走るのは体力が無理だと感じて、くるっと振り返りつつ腰から剣を抜き放つ。


『だいたいこの道を行けばあまり奴らがいない所に出る、倉庫があるから恐らくそこにあるはずだ!
反対は出入り口、どちらにするかはテメエで決めろ!』

「っああ、早く戻ってくる!」

『なら早くお願いな!』


背後から足音が小さくなるのを確認してディザイアンの一人に向かった。

あらかた基地内部を見たあとに牢屋に幽閉されていたロイドを助け出した。
しかし、この格好のお陰で最初は疑われた……というか警戒されたがジーニアスの名前を出してなんとか信じてもらえたので良かった。
しかし処刑されるはずで出る予定の無い、幽閉されたロイドが外にいるのを不信に思ったディザイアンに見つかってしまう。
言い訳を述べるも武器を取り出されたためにこちらも逃げる羽目になってしまった。

こちらのディザイアンはきちんと教育が行き届いているようだなと思わず舌打ちした。


『(さて、どうやって逃げるか……)』


ロイドだけでも生き残って欲しいという諦めだけはないので、意地汚くとも逃げ切るつもりだ。
カッコつけられるほど自分は強くないが、死を受け入れるほど強くもない。

得物を手に
剣技の師に褒められた持ち前の体の柔らかさと素早さで一気に畳み掛けた。
集中力と体力を要する分、素早い剣戟を織りなせる。恩師の教育の賜物である。


『はあッ!!』

「ぐああっ!!」


一人目を倒し他のディザイアンにも向かう。
気絶させただけで殺してはいなかった。
片手に鞘を持ちそれで峰打ちをしたからだ。
走りきった疲労で強張る筋肉を無理やり動かし攻撃すべく剣を振るった。

もう一人を体を屈んで脚を引っ掛けて頭を剣の柄で殴り昏倒させ、さらに一人を相手する。
しかし、脇からの激突に体勢を崩し、勢いよく床に倒れこんでしまった。

いつの間にか来ていた増援によって横からタックルされたようだ。
緊張しすぎなのか気配が読めなかった。
せっかく勝てそうだったのに、これじゃあまた師に怒られそうだ。

その時に強く剣を持つ腕を踏まれた。
痛みに唸りを上げると持っていた剣を指から離してしまい剣は遠くへ蹴り飛ばされた。


『ぐっ……!』

「抵抗は諦めるんだな」

『……はっ、まさか!』

「!?」


平気な方の左手で懐から石を取り出して兜に向かって投げつけた。
ガン!と大きな音を立て衝撃によろめいた兵士から腕が解放された瞬間に立て直し、腹に思い切り蹴りを入れた。
右手を庇いながらさらに懐から大きめの石を取り出して構える。
ディザイアンは魔法も使えるから至近距離でしか繰り出せない剣は時に不利になる。
そのために予備として石ころをいくつか持ち歩いていたのが、魔物以外を仕止めるのにやっと役に立った。

ガシャンと倒れたディザイアン。
最初にいた三人と増援で来た二人。
まだ一体残っている。
ここは欲を言わず逃げるべきか、それとも完全に倒すべきか。
幸いここは運が良かったのか、比較的に敵の数が少なかった。

右手の痛みが邪魔している。
捻挫をしたようだ、これではまともに戦えないだろうと別の方向へ石を投げて意識が一瞬そちらへ行ったのを見てすぐさま踵を返して走った。

十字路に出た瞬間、しまったと判断した。
完全に回り込まれると思った時には先ほどと同じ鎧が四方から見えた。
地の利はあちらの方が遥かに有利だ。
止むなしと両手を上げ降参の意を示した。


「よし、リーダーの元に連れてくぞ!!」


ヘルメットを取られ両腕を取られ両隣のディザイアンに引っ張られる形となった。
何度も捻挫した手を無理に動かす羽目になるので冷や汗を垂らしながら歯を食いしばる。

主人公組はたしか旅の途中に人間牧場の囚われた人々を助けるらしい。
なら一番早く助かる場所に送って欲しいと思う。
恐らく人間牧場へと送られるのだろう。ハーフエルフ以外の人間はみんな酷い扱いを受けるらしいが、あくまでらしいという話なので内容は分からない。
何をされるのかは知らないがあまりキツい重労働はしたくないな。
こいつらのボスがいるであろう部屋へ連行された。
何かキーを入れ、電子音が鳴った後に自動ドアが開く。

そこから見えたのは蒼い髪色の青年だった。
いや、ディザイアンに果たして青年と呼べる程の歳の者がいるかは分からない。
彼らも半分だが長寿族のエルフの血を引いているのだから。
机に向かって何か書類を見ているようでディザイアンの一人が呼んでこちらに気付くのにコンマ何秒か掛かった。

そして大きく目を見開いて驚愕した……のも一瞬だったが自分は確かに確認したはずだ。
しかし、それも一瞬で直ぐにもとの無表情に戻り部下に目で報告を命令した。
……気のせいだろうか?


「先ほど我々の変装をし侵入していた者を捕らえました」

「捕虜のロイド・アーヴィングが逃げ出したのもこの者が手引きした模様です」

「そうか」


机から離れこちらに向かってくる。
相手はしゃがみ込みくい、と指で顎を上げられ視線が合わさった。
それからしばらく見つめ合わさるもんだから、思わずに視線を逸らしてしまった。
男とはいえ元は女である。
時と場所と相手を考えろと自分に言いたいが顔の整った相手に見つめられれば羞恥心だって湧く。
無理言うな、こんなシリアスな状況には慣れてないのだ。


「名は何だ」

『……え、』

「名は何だと聞いている」


これから牧場に送られる人間に名前など聞くのだろうか?
あそこはナンバーで呼ばれるはずだ。
返答にしばらく戸惑ったが、何をされるか分からないため躊躇いがちに眉を潜めながらこの体での名前、『……ソウマ』と答えた。
他のディザイアンとは違うそれに自分は戸惑っていた。

いや、もしかしたら知り合いに似ていたのかもしれない。
なんせ自分もこの姿になってから僅かな時しか過ごしてない。
しかし自分にエルフ、況してやディザイアンの知り合いもいないのだからあり得ない。

この世界に来て唯一関わりがあった人間なんてごくわずかな筈だから。


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