水の封印



シルヴァラント編



魔物を蹴散らして最深部らしき場所へとたどり着く。
石造りのものとは違い、どこかロストテクノロジーさを感じる機械的な場所になんだか違和感さえ覚える。
過去の時代は今では想像できないほどの技術を持っていたのだろう。

それに疑問を抱くこともない、この世界の主人公ロイドは飽きたのかぼんやり愚痴をこぼす。


「じめじめしてんなー、早く帰りてぇ」

「……封印の解放が先だ」

「分かってるよ」

「……この感じ、マナが押し寄せる感じ……火の封印と同じだよ」


ジーニアスが何かを感じ取ったのか目の前の台座を見てそうこぼす。
見れば光りが集約してそこから魔物が出現した。

これを倒すことによって封印が解かれるらしいが食べるものもない遺跡のなかに魔物がいることもおかしな感じがするし……。
ありがちとはいえ、なぜ魔物を倒さなければ封印は解かれないのだろうか。

なにやら作為的なものを感じるが今は目の前の魔物に集中することにした。

やがて魔物を倒すと何か作動され、微かに誰かの姿が見えたがすぐに消えてしまい、それよりもどこからか男の声が聞こえたことに警戒した。
しかしこれは天使の声だとリフィルが教えてくれたのでそれに従い剣をしまう。


「再生の神子よ、よくぞここまでたどり着いた。さあ祭壇に祈りを捧げよ」

「……はい!
大地を護り育む大いなる女神マーテルよ、御身の力をここに!」

『……誰の声?』

「レミエルっていう、コレットの本当のお父さんだよ」

『本当の?なにそれ、どういう……』

「しっ、静かに」


あの桃色の羽を出して手を組み祈りを捧げるコレットをよそに隣のジーニアスにこっそりと声の主について聞いた。
ジーニアスにあの声の主を聞いたもののいまいちしっくり来ない答えにもっと聞きたかったがリフィルによって遮られた。

本当の父親?
よく宗教で神が人間の姿へと落ちて人の子になる話はたまにあるけれど所詮それはおとぎ話の中のお話だ。

クルシスと呼ばれるその存在たちは生まれる魂をどうこうできる力でもあるとでもいうのだろうか。
まるで宇宙人みたいだ。

意外とコレットは複雑な家庭で育ってきたんだなと思うとこちらも複雑な気持ちになる。

ひとすじの光が現れたと途端に白い翼を持った人型の天使がこちらを見下ろしていた。
さすがに何かのシンボルだったり二体に分裂したり四角形になったりはしないか……それにあれは使徒だ。
割とどうでもいいことを考えているとその天使は微笑みながらコレットを見下ろす。

コレットとの面影は少しも似ていないし、髪色が似ているだけだがこちらの視線を気にもせずに少し高圧的な口調でコレットを賛辞する。
が、なんだか少し不機嫌さも見えている。


「よくぞ第二の封印を解放した、神子コレットよ!」

「はい、お父さま」

「……。クルシスから祝福だ。そなたらにさらなる天使の力を授けよう」

「……は?はい……?」

「次の封印はここよりはるか北、終焉を望む場所。
かの地の祭壇で、祈りを捧げよ」

「お父さま、私、何か御不興を買うようなことをしましたか?」

「……別によい。そなたが天使になればいいだけのことだ。
また次の封印で待っている。
我が娘コレットよ。早く真の天使になるのだ。よいな」


そう言い残し光とともに早々にそのレミエルとやらはそそくさと姿を消した。
この本当のお父さまとやらは表情から見るにコレットのことを娘とは考えていない感じ……だったがなんなのだろう、このモヤモヤ感。
あくまで仕事といった感じだ。

自分の子どもを子どもと思いたくないネグレクトな親なんて一定数はいるがそれを間近で見ている感じがするし……。
それにもっと問題は別のところにあるような気さえする。


「なんだアイツ、相変わらずエラそーな感じ」

「コレットに謝りなさい」

「いいんです。お父さま……レミエルさまって本当に偉そうだし」

「さて、次の封印を探すとするか。……あいっかわらずわかりずれーけどな」

「ぼやくな、行くぞ」


次は終焉を望む場所、という明らかにあまり良くなさそうなところをレミエルという羽の生えた男は言っていた。
いったいなんの終焉を望んでいるのか分からないが、それは行ってからのお楽しみ……という奴だろう。
この世界再生が無事に終わる意味ならばいいのだが、なんだかあまりいい予感はしない。
物語を識っている自分からすればそれは当たりなのだが。

封印の地から出て、冷や冷やしながらあの光の道を降りた後に周りを見回して、
あの黒髪の暗殺者であるしいながいないことに安堵していた。
……聞きたいことは山ほどあるが、無理やり聞き出したいことでもない。
お互い対等な立場で話を聞きたいが、相手は果たしてそれを望んでくれるだろうか。

そんなことをぼんやり考えていたら、前方にいたコレットがうっと苦しげな声を上げて地面に倒れこんでしまった。


『コレットちゃん!?』

「先生!またコレットが!」

「大変だわ、すぐに休ませましょう」


突然のことに慌てて、立ち上がる気力もなさそうなのでとりあえず安静にさせるためにあまり動かさずに、羽織っていた外套を枕にしながら仰向けにした。
幸い名前を呼べばかろうじて返事はくるし、呼吸はできてるようだから腕は曲げさせなくとも良いだろう。
熱はないし、脈は少し早いが唇が紫にもなってないし、瞼の裏も白くはない。
貧血というわけではないようだ。

おお、二年も昔のことなのに入院してた時に看護師から聞いた記憶が出てきてくれるとは……。
自分の咄嗟の記憶力に感心しながらも内心パニック状態だった。
この世界にどんな知らない病気があったもんか分からない。

この方法が正しいかも分からない。
自分が出来るのはここまでしかないのだ。
あとは回復魔術があつかえるクラトスとリフィルに任せるしかない。


『息はしてるし見た目は正常だけど……なんでこんな苦しそうなんだ……?』

「野営の準備だな」

「ええ……それにしても封印を解放するたびにこうだとすると、コレットも辛いわね。
さしずめ天使疾患とでもいうのかしら」

『疾患……?前もこんな状態が?』

「ええ、レミエルという天使は一時的な発作のようなもの、と言っていたから命に別状はないはずよ」

『発作のようなもの……?』

「コレット、大丈夫?辛い?」

「ううん、またすぐ治るから……ごめんね。ソウマも……」

『いや、そんな……』

「もー、お前謝るの禁止な」

「えへへ、……ごめんなさい」


意外と本人も周りも平気そうな空気で本当に杞憂なだけなのかと思ったけれど、もしものこともある。
いつもは薪木を拾いに行ったりするのだが、野営の準備中は出来る限りコレットが眠る野営地からは離れなかった。

彼女にしか出来ない再生の神子という存在を無くすわけにはいかないとはいえ、果たして自分が思っているのは心配からなのか打算からなのか……。

そばに間欠泉があり噴き出す音がまあまあうるさいが、魔物もいないのでホーリィボトルひと蒔きだけした。
値段の張るアイテムだが使わずに取っておいても意味がない。
コレットの言う通り、夜になったら顔色も良くなっていた。


「それにしてもソウマ、気道確保に脈拍の確認。パルマコスタで?」

『ええと……はい、パルマコスタの医者がこれだけはやっておけって教え込まれたのをひと通りやったんですが、
天使になるための必要な……天使としての力の覚醒って言うんですかね、それなら何やっても無駄、ですよね……すみません』

「ううん、すごいよ!咄嗟に出てくるなんて普通できないよ」

『……ううん、結局はリフィルさんやクラトスさんの回復の魔術がないとどうにもならないからなぁ』

「卑屈だなぁ。もっと堂堂としてればいいのに」

『ご、ごめん』


人を手にかけることも出来ない人間だからといって、人を救えることができる人間でもないのだ。
ジーニアスに言われて思わず謝ったらなんでそこで謝るのさと返された。

たしかに……だけど回復魔術は強力なので応急処置程度じゃ意味がないのも事実なのだ。
力不足感が否めない。
しかし魔術は使えない身なのでトンデモ展開が起きない限りは期待しても無駄だろう。
……まぁそのトンデモ展開が起こったとして自分の精神が無事なのかわからない事を想してしまう。

人を斬る覚悟も無ければ、人を救う力もない普通の人間なのだ。
無い物ねだりしたって仕方のない事だ。

雑念を振り払うように横に置いていた剣を持って素振りをしてくると言い、痛みも落ち着いてきたのか幾分か顔色の良さそうなコレットをひと目見てから大丈夫だろうとその場を去った。



* * *



『299……っさん、びゃくぅ……!あーもうだめ、……』


ぜぇぜぇと荒い息を整えながらやっと素振りを終えた。汗が頬を伝って気持ち悪いので布で拭き取る。
はぁ……エクスフィアを付けても連続で三百回が限度なのか。
いつも連続で百回ほどしか練習できないから力付けなきゃと思って多めにしてるのにもうバテてしまった。

これじゃあ、いつまで経ってもムキムキ筋肉へたどり着けないどころかロイドやクラトスのような逞しささえ無理だろう。
二の腕もまだまだだし、ゴリマッチョとは言わずとも細マッチョにはなりたいんだけれどなぁ……。

なんかエクスフィアを付ければ飛躍的に上がるっていうから素振りも五百、いければ千回くらいはいけるかなぁと思ったが、やはりもともと欠けているのはダメなのか自分の潜在能力がもともとカスなのか……普段の二、三倍程度しか成果は無かった。

なんかエクスフィアの使用法にコツでもあるのだろうか?
どういう原理か分からないが皮膚に付けるだけじゃいけないのだろうかと思い、
一応邪魔にならない場所は……と思って利き手である右腕に付けて、万が一に外れないよういつも付けてる滑り止め用の包帯を付けたわけだけど……。


「あ、いたいた。ソウマ!」

『ロイド君?と、クラトスさんも。
どうした?』

「これからクラトスに稽古つけてもらうんだ」

『へぇ……いつもクラトスさんに突っかかってるロイド君がねぇ』

「う、うるせーな。悔しいけどクラトスのほうがすっげー強えんだ、みんなを守るためには必要なんだよ」


遺跡でのクラトスとの小さな衝突を思い出してニヤリと笑ったら、恥ずかしいのかムッと顔をしかめたけれど自分の実力は理解しているようでクラトスに習うことにしたようだ。

ロイドの二刀流は我流だからどうしても基本は覚えたいのだとか。
自分としては我流でそこまで強くなれたのもすごいと思うんだけれどな。


「ソウマは何してたんだ?うんうん唸ってたけど」

『んー、いまいちエクスフィアを得ても強さってのが分からなくてさぁ。
前より力が強くなった感はあるんだけれど凄い強い!って感覚はなくてさ、なんかコツってあるの?』

「え、うーん……」

「……エクスフィアはそう簡単にはその者の潜在能力を開花させない。
時間が必要だ」

『時間……?』

「欠けたエクスフィアでそこまで力を引き出せるのは聞いたことは無いが……」

『そんなにすごいことなんですか?
小さな石ころなのに、いまいち実感が湧かないなぁ……』

「それよりも、ソウマも必要があるなら稽古をつけるがどうだ」

『え、いいんですか?大変そうなんですけど……』

「おいそれどういう意味だよ」

『いや、悪い意味じゃないって』


ロイドの二刀流はすべてが我流。
我流ってことはそれで一度完成させてしまっているわけだから、川の流れを変えるように一度慣れてしまった動きを矯正させるのは大変そうって意味だが悪く捉えられたようだ。

上記のことをロイドにも分かりやすくそう言い直したら納得してくれたようでよかった。

……まぁ、なにかと反抗期なロイド君なのでそちらの意味も若干含んでたけれど。

しかし自分も習うことが出来なかった部分は我流だし無茶苦茶な部分もあるからロイドのことはあまり悪く言えない。
ケースバイケースで手当たり次第物を投げたり蹴飛ばしたりもする。



* * *



見学としてクラトスとロイドが木刀を使って稽古を行なっているのを見ていた。

クラトスのあの重そうな剣戟をロイドはなんとか紙一重で躱していた。
寸でのところで顔だけを曲げて避けたり、吹き飛ばされても両剣使いであるロイドが木刀を盾にして自身に対する威力を抑えながらも宙返りして着地するなどやってることは常人では難しいことだ。

エクスフィアが無ければ、通常の人間はよくアニメや漫画で見るあんな動きはできないのだ。
自分がやってみたのを想像するも、着地失敗しそうだし首や腰の骨がゴキッと嫌な音を立てそうで無理そうだと首を横に振る。


「ソウマもこっち来いよ!ホラ!」

『う、うん……』


良い汗をかいているロイドが手を引っ張ってクラトスの前へ連れてくる。
クラトスは剣の柄に両手を置いて静かにしていた。
うぅ……自分に練習すら務まるのか分からないんだけど……。
木刀を持ち、中途半端な体勢でいたらクラトスに注意されてしまった。


「そのような体勢ではすぐに剣は薙げないぞ」

『す、すみません……』


どうにも、人間相手になると戦意を喪失してしまいがちになる。

まぁ元の世界じゃ殺人は大罪、いくらここが異世界とはいえ銃刀法違反やら野生動物保護法違反などいろいろ罪を犯しているので……。
生きるために今さら人一人殺そうが警察なんていないので捕まる余地はないのだが、傷つけることはできてもどうしても人だけは殺せないし、しかもパーティ仲間となると……。

魔物を狩る時の気持ちになるだけ切り替えて、いつも通りの持ち方にして体勢を低くする。
大丈夫……今手に持っているこれは、人を斬れるものじゃない。


「いつでも来い」

『……では、行かせてもらいます』


相対するクラトスは木刀とバックシールド。
木刀とはいえ青痰作れるほどにそれは痛い。
普通に向かうだけでは盾で弾かれる……ならばと蒼波刃を出す。


『はぁっ!』


顔へ目掛けて蒼波刃を繰り出し、盾でガードするのを狙ってさらに再び蒼波刃を繰り出す。
完全に視界が盾で遮られた後、背後へ回り込みそこを叩こうとしたがさすがに察知され、振り向かずにそのまま防がれた。

バックステップで一度距離を置いて、ダッシュの後に技を放つ直前に足を強く踏み込み、勢いをつけて風刃剣を繰り出した。

突きの際に浮かせるのだが、盾で流され背中を剣が襲う前にそのまま勢いを殺さずに前転してギリギリでそれを避けた。
往生際が悪くとも転がったままナイフ代わりの小石を投げたがそれすらも盾と木刀で避けられた。


『くっ、当たんない……!』

「考えは悪くないが動きが単調過ぎるからもっと先の先まで読め。
脇をもっと締めろ。
基礎が無ければ弾く膂力(りょりょく)も出ることはない。そこは私が教えてやる。

それと前から思っていたがもっと肉を付けろ、最近食べる量が減っているな。
食わなければ力は得られん、弱者に甘えるならそこから見えるのは死のみだ」

『うぐぐぅ……ぜんぶ事実……』

「落ち込むなよソウマ、……あいついつもああ言ったあとボコボコにしてくっから」

『嬉しくない助言ほんとありがとう!!!

うぇっ!?う、わっ!ちょっ……!?』


ロイドの言う通り今度は自分の番と言わんばかりに強力な連続攻撃が襲ってきた。

遠目で見てるには良かったがいざ自分がその身になると涙目になりそうだった。
その一撃の重さが、今の得物は互いに木刀のはずなのに重く、右から来る剣戟を左に僅かに逸らそうにも力が強い。

まともに受けてはダメだと手と足の動きを見て避けに行く。
宙返りなどできないから砂にまみれつつもゴロゴロと転がりながら避け続ける。

だいぶ距離を取ったあと、ぜぇぜぇと荒い息をなんとか整える。
一応こちらの体力回復に待っててくれるが、本番ではこうはいかないことは分かっている……が、なかなか体力のない自分はここで殺されているだろう。
ディザイアンに捕まったときの悔しさを思い出す。

ほ、本当食べる量増やそう。
目指すは関取だ。

相手は防御と攻撃を交互に行える。こちらは剣一本のみ。
……そういえば、どこかのゲームで敵の隙を作って一撃を食らわす方法取って勝つ、みたいなのあったな。
自分ができるか?
やらずに終わるより、やって失敗する方がマシか……。

自分がふと思いついたのは、攻撃の瞬間のわずかな隙を突いて、または受け流して体制を崩させる……。
いわゆるパリィなのだが、試したことはないので成功するかどうかも分からない。


「来ないのならこちらから行くぞ」

『(……っ!)』

その方法をするよりもこのクラトスの体勢を崩させるなんてことは不可能に近いのではないか!?
ロイドと同じくギリギリのところで避けることしかできない。

あれはゲームだからこそ出来る戦闘システム的なアレなので筋肉に毛の生えた程度の自分では力尽くでクラトス相手にどうこうできるはずはなかった。

続く剣戟に握っている手の限界が来てしまいそのまま大きく弾いた際にすぽっと剣がどこかへ飛ばされてしまって、しまったと思った時にはいつの間にか脚を取られ地面と空が逆になっていた。
背中と頭を打ったためすごく痛い。
凄い悔しい。


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