わぁ、と、胸に溢れる感嘆の声を洩らした。見渡す限りに広がる空と海。眼下に広がる自然豊かな母国。足に伝わる布の感覚と馴れない浮遊感。わたしは今、空を飛んでいる。

「凄い!本当に飛んでる!」
「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいよ」

大人げなく燥ぐわたしに隣に腰掛けるアラジンはニコニコと笑った。未だ落ち着きを知らない心臓は、ドクドクと脈打つ。こんな不思議な体験をするきっかけは、遡ること数分前。

アラジン、空を飛べるって本当?シンドリアの王宮に勤める見習い文官であるわたしは、とあることから出会い仲を深めた少年アラジンへ疑問をぶつけた。休憩中に上司であるジャーファル様からこの話を聞き、居てもたってもいられず飛び出してきたのだ。らんらんと目を輝かせていたであろうわたしに、アラジンは元気よく返事をする。「うん!魔法のじゅうたんを使えばね」「お願い、空まで連れていって!」我ながら、子供っぽい願い事だと思った。それでもアラジンは笑顔を浮かべ、お安いご用さ、と、頭に巻いていたターバンをといた。その途端、ターバンはふわりと浮く。目の前で起きた現象に、目を見張った。まさか本当に、飛べるなんて。地面から数十センチ浮き上がった魔法のじゅうたんへおそるおそる片足をのせる。感激に浸るのもそこそこに、それからの流れは速かった。魔法のじゅうたんはぐんぐんと高度を上げ(途中わたしは情けない叫び声をあげながらも)、あっという間にシンドリア全土を見渡せるまでとなったのだ。高い所が苦手な訳ではないが、流石に怖じ気づく。しかし、目の前に広がる世界は恐怖を塗り潰すほど美しかった。

「…やっぱりシンドリアってきれいな国だなあ」
「うん、シンドバッドおじさんの国は本当に素敵な国だね」

アラジンのくりくりした丸い瞳がシンドリアの大自然を写す。その表情に、目を奪われた。
アラジンはたまに大人びた顔をする。あまり長い付き合いとは言えないけれど、どこか謎の多い男の子だ。そういえば、アラジンの髪の色もシンドリアの海や空のようなきれいな青をしている。

「アラジンはヤムライハ様と同じ魔法使いなの?」
「うん!師匠のヤムお姉さんほど上手くないけどね」
「いやいや、小さいのにすごいすごい」

心からの感心を伝えながら、誉めるようにアラジンの頭を撫でた。まるでおばあちゃんのような行動だけれど、本当にそうなのだ。わたしよりも8つほども年下のまだまだ幼い少年が、わたしには未知である「魔法」というものを学んでいる。魔法のじゅうたんを操ることが魔法使いとしてどれだけ優れているかなんてさっぱり解らないけれど、わたしにとっては大きな大きな一大事だ。

「こうやってお姉さんに撫でてもらうの、僕好きだなあ」

気持ちよさそうに目を細め、アラジンはわたしの肩へと体を預けた。子供が大人に甘えるような、そんな年相応な様子。わたしはまだ大人とは呼べない歳かもしれないけれど、弟が居たのならこんな感覚なんだろう。ゆるやかな風に靡く青いさらさらの髪は少しこそばゆく、心地好い。
わたしたちはお互い、知らないことが多い。それでも良い、むしろこのままで十分だ。わたしとアラジンの間には、こんなにも安らかな空気があるのだから。

「ところでお姉さん」
「なに?」
「ご褒美に抱きついてもいいかい?」

前言撤回。10年早いわ、このマセガキ。



艶やかな色に飲まれる様へ/サザンクロスの怪獣






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