溜まりに溜まった仕事を終わらせ、宮殿内を歩いていた。シンが脱走なんてするから。仕事を後回しにして宮殿中を探し回った昨日は、今となっては懐かしい思い出。
「あ、ジャーファル!」
声の聞こえた場所に目を移すと、庭で「おーい!」と手を振る名前(なまえ)を見つけた。私は庭に降りて名前(なまえ)の隣に座った。
「ジャーファルだー!わーい」
名前(なまえ)は私に抱きつき、笑顔を見せた。名前(なまえ)は私に対してのみではなく、自分の気に入った人には誰にでも抱きつく。いつものことなので、もう引き離すのは諦めている。
「名前(なまえ)は何してたんですか?」
「うーん、花を見てた。ジャーファルはー?」
「仕事がキリのいいところまで終わったので休憩をと思いまして」
ジャーファルが休憩なんて珍しいね、と笑う桜。そうですかね、と笑う私。
「無理して笑わなくていいよー。ジャーファル疲れてるんでしょ?」
自由奔放に過ごしているように見えて意外と気づいてくれる桜。私だけに対しての言葉だといいなと思う。でも名前(なまえ)は誰に対しても優しい言葉をかける。どうしたら私だけを見てくれるのだろう。
「あ、シンですね」
先ほど自分が名前(なまえ)に声をかけられた廊下のあたりに我が国の王、シンの姿があった。
「ん?あれ王様?また脱走かな」
名前(なまえ)は私に言われるまでシンの姿に気づかなかったらしい。いや、言われても確信が持てていないようだ。名前(なまえ)はそこまで目がよくないらしい。あれ?いや待てよ。そうすると矛盾することが。
「名前(なまえ)……なんでさっき、私があそこにいるのが分かったのですか」
あの時名前(なまえ)は私だと確信して名前を呼んだ風に聞こえた。あの時も名前(なまえ)はここにいたはずだ。何故先程のシンには気づかなかったのだろう。
「ジャーファルはさー、緑なんだもん」
「へ?」
「遠くからでも緑はジャーファルって分かるじゃん。ミントみたいな緑。」
そういって名前(なまえ)は近くにあったミントの葉にごめんね、と声を掛け地面から抜いた。そしてそれを私の髪に差す。
「シンだって紫が結構目立っていると思いますが」
そう、シンの紫だって目立たない色でもないし、シンは宝石をたくさんの身に付けているから普通にしていても目立つ。
「んー。でもやっぱりジャーファルはジャーファルーって感じでどこにいても分かるよ」
その言葉に特に恋愛要素がないことを分かっていても、私は特別なんだと少し嬉しかった。
「名前(なまえ)、ありがとうございました」
「んー?何もしてないけどどういたしましてー」
彼女の手にキスを落とし我が国の王を追いかけるためにその場を離れた。名前(なまえ)、いつか私だけのものにしてみせますよ。