夜明け前にふっと目が覚めた。
もう一度眠りに着こうとしてもなぜかそれが出来ない。胸が少しドキドキする。気分を変えるために音をたてないように窓を開けベランダに出る。まだ空は真っ暗で月と星しか見えない。そろそろ月が沈みそうだ。そして星も消える。


「風邪引くぞ」
「・・・あれ、ジュダルさん」


ぼうっと消えかけている月を眺めていると後ろからジュダルさんの声が聞こえた。ジュダルさんは闇に混じり一瞬見えなかった。そんなことを本人に言うときっと怒られると思うから心の中に留めておく。「どうしてこんなところにいらっしゃるんです?」とジュダルさんに聞くと、ジュダルさんは「何となく」とぶっきらぼうに答える。心なしか普段より少し不機嫌そうな声音。私がゆっくりと振り向くとジュダルさんは案の定眉を寄せ、片手に杖を持っていた。そういえば前にジュダルさんを一度怒らせたことがあった時、思いっきり叩かれたことがある。あれは痛かったなぁ。・・・じゃなくて。呑気にこんなことを考えているとジュダルさんは苛立ったように呟いた。


「そんな薄い服装で外に出るんじゃねー」
「あ、いえ、平気です。結構温かいんで」
「いや、そういう問題じゃなくって」
「・・・?」
「お前女なんだから少しはそういう…自覚持て」
「・・・ありがとうございます?」


褒めてるようなよく分からないことをジュダルさんに言われてしまった。それにしてもジュダルさんこそどうしてこんな時間に起きてるんだろう。というか何で私の部屋に居るんだろう。今更ながら疑問に思うとジュダルさんは呆れたように言った。


「はぁ、俺だってお前と一緒だっつーの」
「一緒?」
「俺だって何か全然寝れない」


奇遇ですね、とクスクス笑ってみる。するとジュダルさんは照れたようにそっぽを向く。気が付けば片手にあった杖は無くなっていた。ジュダルさんの杖は少し怖いけれど素敵だから結構好きだったりする。装飾が好き。ただそれだけの単純な理由。でも杖に秘められている強い力は苦手。というよりも怖い。紅玉様からこんなお話を聞いたことがある。「ジュダルちゃんは戦闘狂なのよ」と。一瞬耳を疑ったけれどあっさりと納得できた自分がいた。


「なあ」
「何でしょう」


ジュダルさんがどこか哀愁を帯びた声音で私に問う。そっと私の腕を握った。


「ナマエは俺と結婚するのは嫌か?」
「いいえ、そんなことはありませんよ」
「じゃあどうしてこっちを向かねーの?」
「・・・向けばいいんですか?ほら」


私がゆっくりと振り向くとジュダルさんはぎゅっと抱きしめた。ジュダルさんは何も言わずしばらくの間私を抱きしめていた。まるで壊れ物を扱うように。
ジュダルさんと出会ったのは去年の今頃。たまたま私の国に訪問していたジュダルさんがなんとなんとこの私に一目惚れをして下さったらしい。それからは毎日のようにアタックされ、それを知った煌帝国の方と私の国の人が縁談を進めてしまった。元々煌帝国に縁のあった私の国。しかも小国だから縁談を断るなんてそんな大層なことは出来なかった。

こんな形で縁談が決まってしまったからと言って、私は別にジュダルさんのことが嫌いというわけではない。だけど恋愛感情で言う“好き”という訳ではない。それにジュダルさんの愛情は怖いときがある。というか、最近は怖い場合の方が多い。一度似たようなことをぽろりと紅玉様にお話したことがある。そうすると紅玉様は、「今ならまだ戻れるわよぉ」という何とも紅玉様らしいアドバイスを頂いた。戻るも何もそれは許されない。それに今更色々考えたとして、結婚式はもう明日、否。今日なのだ。


「今日は式ですから・・・もう一度眠りますね。おやすみなさい、ジュダルさん」
「あぁ、おやすみ」


いつものようにジュダルさんにベッドまでお姫様抱っこで運ばれ、ぼすんと優しく落とされる。ジュダルさんは何かを言いたそうにしていたけれどあえて聞かなかった。というよりも、聞けなかった。


「またな」


虚ろな私の視界に悲しそうなジュダルさんの笑みが映った。






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