高い空に煌めく綺麗な星。一つ一つがキラキラと、誰よりも自分を輝かせながら暗い夜空を艶やかに染め上げる。シンドリアの王宮の屋根。上がることなんてジャーファルが許さないけど、こっそりなら誰にも気づかれない。たまに、ヤムライハに気づかれて怒られながら下りることはあるけどなんだかんだで許してくれる。ジャーファルはお堅いからね。女性がそのように危ない真似をしてはなりません、何回も聞いたから覚えたこの言葉。最初は反省もしていたが、何回も言われれば話なんて聞かず、今度はどうやったら気づかれずに登れるかなんて考えていたものだ。バルコニーでは空満天に広がる星なんて見れない、だから屋根に上るんだ。
 寒さを防ぐ毛布。見回りの兵士にきつく言いつけ、わたしのいる場所を誰にも教えないようにする。これだけすれば見つからない。落ちないようにゆっくりとした足取りで定位置につく。腰を下ろし、斜めの屋根へと寝転ぶと目の前にはたくさんの星が散らばり一つの宝石みたいに輝きを放っていた。今日も綺麗だな、ジャーファルに言わせれば女性らしうない寝方の大の字に腕と足を広げて深呼吸をする。空気が澄んでいて気持ちいい。自然に綻ぶ口を隠すこともせず広げていると、不意に名前を呼ばれ顔を横に向ける。そこにはアメジストの長い髪を風に靡かせるシンが立っていて、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。

「やはりここに居たか」
「降りろって言われても降りないよ」
「別に降りなくてもいい、そんな薄着で寒くないのか?」
「毛布あるから大丈夫」
「準備がいいな」

 体を起こし、見せるように肩に掛け主張すればシンは笑って隣に座った。何をしに来たんだろう、横目で見ていると彼はさっきわたしがしていたように寝転び、片手を頭の後ろに敷きながら夜空を眺める。もう片方のお腹に乗る手には執務の途中で逃げてきたのか、黒いインクが少し付いていた。またジャーファルに怒られるよ、そういえば小さく声を上げ笑う。もう慣れっこってことか。目線をシンから離し、上を見上げる。暗い世界に光る星、暗いと言っても真っ黒とはいかない。少しばかり薄く、淡い紫といった色に見える。それはシンドリアの明かりが混じってそう見えているのかよくわからない。もっと明かりのないところにでも行けば本当の真っ暗な夜空が見えるのかな。そんなことを考えながらふ、と夜空の色と似た色を持つ人物が頭に浮かぶと口が勝手に動き「シンみたいな色」と呟く。

「俺みたいな色?」
「夜空、真っ暗じゃなくて少し明かりが入って紫がかってるでしょ?だからシンの髪の色みたいで綺麗だなと思って」
「…ナマエはいつも唐突だな」
「何が?」
「いや、気にしないでくれ」

 不思議な物言いのシンに首を傾げれば体を起こしてくしゃり、と頭を撫でられた。いきなりどうしたんだ。彼はわたしを見た後、再び視線を夜空へ向け、付けているピアスがシャン、と音を鳴らす。すると頭を撫でる手が下へと滑り降り、大きい手が屋根に付くわたしの手へと重なり強く握られた。寒さのせいかほのかに温かく感じるシンの手。そのぬくもりを逃がさぬよう、握り返せば指を絡め取られる。

「俺が夜空だとすれば、ナマエはこの幾千にも輝く星だな」
「わたしが?」
「ああ、離れず、いつも傍にいてくれる」
「何その口説き文句みたいな言い方、もしかしたら離れちゃうかもよ?」
「そんなこと、俺がさせるとでも思うか?」

 口元を上げ、意地悪そうな笑みでわたしを見てくるシンはどこからそんな思いが出てくるんだというくらい自信たっぷりな言いよう。離れたいと言ってもこれは死ぬまで離してくれないだろうね。答えを待つかの様に覗きこんでくるシンの肩からさらり、と流れ落ちるアメジストの髪。光に反射して光っているよう。見つめてくる彼に仕返しとばかりにわたしは口元を上げ、同じように意地悪く笑い「まさか」と言葉にした。

企画「color」さま提出






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