06



中間テストとか期末テストが終わった後の一週間、廊下の掲示板には各学年の成績上位十名の名前が貼り出される。
そしてこれを見て毎回私が思うのは。
「……これってさ、既視感感じる名前多いよね」
「はいはい。『忍たま』のでしょ」
「そうだよ!」
加藤は聞き飽きたというようにため息をついた。
どういう因果か、各学年すべての貼り紙に『忍たま』キャラと名前が被っている人が、少なくとも一人は確実にいるのだ。
中等部で言えば、一年では一組の黒門伝七と任曉左吉が首位争いしてるし、二年には池田先輩、川西先輩、能勢先輩。彼らとは委員会の先輩である能勢先輩経由で知り合い。三年生は、伊賀崎孫兵の名前がいつも五位前後にあって、たまに浦風藤内が下の方に入ってくる。高等部はそれぞれ、一年生は平先輩と田村先輩、二年生は久々知先輩と鉢屋先輩、三年生は立花先輩と潮江先輩。彼らが各学年不動の一位と二位を保持している。
「こういう人達だったらさあ、『忍たま』のキャラと名前被ってても許せるわ」
「出たよ学歴社会的な発想!」
加藤が納得いかないとでも言いたげに呟いた。私はそれを横目で見やってため息をついた。
「つまり加藤じゃ駄目ってことだよ」
「わざわざ言わなくていいっつの!テストの度に毎回言ってさあ」
「何回も言われるようだから駄目だって言ってんの!あんた今回の数学は平均いけるとか言ってたじゃん!なんで赤点スレスレなのさ!」
そう。この馬加藤、なんということでしょう。私が教えてやったというのに平均点など全く届いていなかったのである。届かなかったどころか、あと五点で赤点だったのだ。
「いやあ、実際のテストになるとイマイチ思い出せないっていうか?よくある話だな」
「よくある話だけどそういうこと言ってんじゃない」
「――団蔵はまた赤点だったのかぁ」
と、聞こえて私と加藤はそちらに目をやった。
私達は掲示板の前で並んでいたわけだが、私の隣に二人組の男子生徒が並んでいた。上履きの色で同じ学年とわかる。どちらも嫌な顔でにやにや。
少し距離をとりつつ首を傾げる。加藤はうえー、と嫌そうな声を漏らした。
「赤点じゃないし。セーフだったし」
「えー?一緒だよなぁ」
「なあ」
そして二人組は顔を見合わせてにやにや。なーんか感じ悪いなあ。
「ま、今回数学が満点だった俺達には関係ないことだけどな!」
「そうそう!」
「うわー……」
加藤は嫌悪二割呆れ八割といった顔で二人組を見ていた。こいつのことだから、こんなあからさまに挑発されたら怒るかと思ってたけど。意外と冷静だ。
「……加藤、知り合い?」
「んー。まあ、昔なじみ?」
「ふん。アホのは組と昔なじみなんてっ」
「お前らって、そういうとこ本当に直んないな」
「余計なお世話だっ」
二人組はつんとそっぽ向いてそう返す。昔なじみねえ。私だったらこんな挑発されると縁切りたくなるけどな。
「お前らそんな態度でいいのかあ?」
「は?」
「どういう意味だ?」
唐突に加藤がそんなことを言うので、二人組は揃って首を傾げた。私もよくわからないが、加藤だけは面白そうに笑っている。おい、その顔さっきまで二人がしてたのと一緒だぞ。
「お前らは今、大変な危機に直面しているんだぞ!」
「何言ってんの団蔵」
「頭大丈夫?」
結構な言われようだけど私もそう思う。
「逃げるなら今のうちだ」
「よくわからないけど、俺達が団蔵から逃げるわけないだろー」
「なあ」
二人組は顔を見合わせて笑う。加藤はへえー、と何か含むように笑って、私に目を向けた。
「ところで花倉。この二人の名前知ってる?」
「は?知らないけど」
初めて見た人達だ。違うクラスの人の名前と顔まで知っているほど社交的ではない。
「この二人の名前はな、黒門伝七と任曉左吉っていうの」
――へええ、なるほど。
それを聞いた私の顔も、おそらくさっきの二人組と同じ嫌な顔だろう。その二人組はまた不思議そうに首を傾げている。
「ってことはー、あの伝七きゅんと左吉ちゃんと被ってるわけだ!」
「はあ!?」
「伝七、きゅ、ってなに!?」
二人組が途端に顔色を変えたのを確認して私と加藤はにやにや。
「あの二人ちょー天使だよねえ!可愛いよねえ!」
「ちょ、やめろ!」
「いやあ私としてはぁ?あの二人ってただのツンデレなんじゃないのって!は組のみんなと仲良くしたいだけなんだよねえ〜って!」
「ちっげえ!」
「やめろー!」
「勉強出来て運動出来ないって典型的だけどさあ、まあ天使だから!仕方ないよね!むしろあの足手まとい感が天使だよね!」
「やーめーてー!」
「まじ可愛いわぁー一年生はみんな可愛いけどい組まじ天使だわ!この前のい組回なんかホント――」
「もういい!左吉帰ろ!」
「団蔵覚えてろよっ!」
最後にまた典型的な捨て台詞を残して、二人組はバタバタと走って行った。勝った!
「あははは!あいつら慌てすぎー!」
「ねー!何がそんなに嫌だったのかね!」
「まあ、あいつらも大変だからなっ」
私と加藤はその場でひとしきり笑って、やっと一息ついた。
「やー、スッキリしたあ」
「花倉のお陰だな」
加藤がからっと笑う。
――やっぱこっちの笑い方の方が似合うな、こいつ。
「にしてもあの二人なんなのー?性格悪くない?」
「そういう質だから仕方ねーよ。俺達も戻ろうぜ休み時間終わる」
「んー」
ちらりと掲示板を見上げると、中等部一年生の表では、一番上に任曉左吉、二番目に黒門伝七の名前があった。点差は四点、任曉の総合得点は全教科満点マイナス十点なんて驚異的だ。二人だけ群を抜いている。
「……加藤、次回はちゃんと平均点とりなよ!」
「えー」
加藤は顔をしかめた。
「あんだけ言われちゃ気に入らない!あの二人に勝てとは言わないけど、せめて平均くらいはいきなさいよ」
「つってもさあ、勉強しても平均とれないんだからしょうがないじゃん」
「どうせ私がいない時はサボってたんでしょ」
「う」
加藤は一瞬ぎくりとして、誤魔化すようにへらっと笑った。こいつは本当に……。
「次はもっと時間とって教えてあげる」
「え、まじでっ?」
「まじで!覚悟してなさいよ、馬加藤」
「……平均とったら馬加藤って言うのやめろよなあ」
「全教科平均とったらね」
「はあ!?無理じゃん!」
「この馬加藤が!」
――ま、馬鹿だ馬鹿だ言ってるけど、加藤団蔵って名前が似合うくらいにはいい奴だと思うよ。


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