04



「あ!お前!」
放課後に廊下を歩いていたところ、資料室から出てきた田村先輩と鉢合わせた。
彼は私を見てすぐに声をかけてきた。田村先輩は結構印象的な人だから、私は彼を覚えているが、なんで田村先輩まで私に反応したんだろうか。
「私より団蔵派のやつ!」
「なにその覚え方やだな」
なんか加藤のこと好きみたいに聞こえる。うえー。
「何してるんですか」
「見てわかるだろう。資料室の整理だ」
言われてみれば、彼は両腕で資料の束を抱えていた。
「なんで田村先輩が?」
「会計委員会の活動だよ」
「……あ、加藤と先輩の接点って何かと思ったら」
委員会繋がりだったのか。
「お疲れ様ですねえ」
じゃあ私はそろそろ帰ります、と続けようとしたら。
「花倉、ちょっとこれ持ってて」
「えっ?」
いつの間にか加藤がささっと私に資料の束を押し付けていった。おい、なに勝手に!
「加藤!なんで私が手伝わなきゃなんないの!」
「どうせ暇だろ、田村先輩とお喋りしてるだけで」
「ひ、暇じゃねーしー……『忍たま』観に帰るしー……」
「まだ時間あるじゃん」
加藤はあっさり却下しやがった。お前の前で団蔵の可愛さ延々と語ってやろうか、ああ?
「なんだ、お前あれ観てるのか」
「は?『忍たま』ですか?」
「うん」
田村先輩が少し驚いたように言う。そうか、彼もキャラと名前被ってるから反応したのか。しかも彼の場合、結構有名なあのミキティだもんなあ。
「……そういえば、田村先輩は嫌そうな顔しませんね」
「どういう意味だ?」
「いや、『忍たま』のキャラと名前被ってる人って、よくその話題出すと嫌そうな顔するので」
「うーん。確かに……」
田村先輩は少し思い出すような素振りを見せた。知り合いにいるのだろうか。
「まあ、私は奴らとは違うから!」
「ん?なにがです?」
「オーラがっ!」
――何言ってんだこの人。
「他の奴らとは違って、この私は何の心配もない!常に完璧な学園のアイドルたる私は、あの漫画でも常に完璧な良き先輩として素晴らしい活躍を――」
長い長い。そうだった、彼は酷い自惚れ屋だった。すっかり忘れていた。
「優秀かつ格好いい学園のアイドル、なんと私にぴったりなことか!」
「はあ……かっこいいっていうか、ミキティは可愛い子だと思いますけどね」
「可愛いっ?というかミキティってなんだ。やめろ気持ち悪い」
「先輩には断じて言ってません」
あと、言っちゃ悪いけど今のあなたの方がよほど気味が悪……いや流石にやめとくけど。
「他の奴らは本当に見るに堪えない馬鹿っぷりを披露しているものな。まあ嫌な顔をするのも仕方がない」
「いやミキティも結構馬鹿なとこある気がしますけど」
「何か言ったか?」
「……いえ」
そんな、ガチで睨まなくても。どんだけ自分好きなんだよこの人。自分の名前のついてるキャラさえ貶されたくないとは。
「特にあの滝夜叉丸だな!あれは酷い!」
「そうですかねえ。あれはあれでいいキャラしてると思いますけど」
「何か言ったか?」
「……いえ」
だから、いたいけな後輩女子をそんなガチで睨まないでください。何が気に障ったんだろう。平先輩とは仲悪そうだから、相手が褒められるのは嫌ということか?
「奴はあのアニメを見て反省するべきだな、日頃の行いを!酷い自信過剰で、見ているこっちが恥ずかしいくらいだ」
それブーメランしてますよ、田村先輩。

資料室での作業の手伝いを終えて、ありがとー、と笑う加藤には団蔵語りのメールを送ってやると脅して教室に向かっていた時。
「あ!お前!」
平先輩だった。窓の向こうから私の方を見ていた。
「私より団蔵派のやつ!」
「また言われた!」
うえー。やだなー。本当にやだな。
「別に加藤派なわけじゃないんで。そういう言い方やめてくださいよ」
「なるほどあれから心変わりしたか。つまり、やっぱり平先輩かっこいい!ということだな」
「はあ〜?」
やばい、本気で嫌〜な顔しちゃった。平先輩もさすがにむっとした顔を返してくる。
「なんだ、その反応!」
「いえ……平先輩、『忍たま』知ってます?」
尋ねると、平先輩は少し首を傾げてから頷いた。なぜか、得意げに。
「知っているとも!」
「なんでそんな嬉しそうなんですか」
「お前は知らないのか、あの漫画に私……と同じ名前のキャラクターがいることを!」
驚いた。まさか本人からその話題が出てくるとは。
「ええ、今まさにその話題を出そうと思っていたところです」
「ほう。やはり知っているか」
まあ、滝夜叉丸は特に有名だものなあ。しかし、だから何故あなたがそんなに誇らしげなんだ。
「平先輩も、嫌がりませんね。『忍たま』の話題」
「何を嫌がるところがあろう。私は他の奴らとは違って、完ッ璧だからなっ!」
――おうおう、なんか嫌な予感がするぞ。
「成績優秀、才色兼備!学園ナンバーワンのアイドルとは、この平滝夜叉丸の名に相応しい!あの完璧さが憎い程だ、なあ!」
「え……」
なあ、って言われても。
「ま、まあ、あのネタキャラ感がぶっ飛んでて良いですよね、わかります」
「ん?ネタキャラ?よくわからんが、そうだろう良いだろう!もっと褒めたまえ!」
――あんたも自分大好きすぎるな!名前同じだけのキャラにどんだけ感情移入してんだよ!
「他の奴らは本当に、どうしようもない馬鹿さ加減で恥ずかしいのも無理はない。ああ私が完璧な人間でよかったと思うのは、特にあれを見た時だなっ」
先輩が完璧であることに、どういう関係があるんだろう。滝夜叉丸と平先輩の行動は一切関係ないのに……ああ、いや、なぜか性格面はやけにリンクしてるけど。
「滝夜叉丸も大概馬鹿っぽいと思いますけど」
「なんだと?」
「……いえ」
ああ、なんかデジャヴ。睨むな睨むな!
「特に田村三木ヱ門!あれはない!」
「おっと」
あんたもか。
「あいつは私に勝てもしないくせに突っかかってきて、あまつさえあの自惚れ!火器を恋人かなにかのように扱うというのも気味が悪いし!」
「ミキティはその辺りも含めて可愛いと思います」
「なんだと?」
「……いえ」
――今思ったけど、この二人、なんか似てるな。
「ふん。まともな感性をしていれば、あんな醜態を一般に晒されているだけで、恥ずかしいったらないはずなのにな!」
それブーメランしてますよ、平先輩。

その夜の私と加藤のメールにて。
『田村先輩と平先輩って仲いい?』
『気持ち悪っ!仲いいわけないじゃん!』
『あんなに似てんのに!おんなじような事ずっと言ってたよ!?』
『それは俺達もよく思う。あれじゃない、同属嫌悪』
『はた迷惑だなぁ。あの人達こそ、キャラと名前被ってるの恥ずかしがった方がいいと思うんだけど』
『そんなしおらしい性格してたら、あんなキャラになってないし』
『ん?それは関係なくない?』
『関係あるだろ』
『あ、ごめん間違えた。キャラってあれか、性格って意味か。先輩達がああだから、ミキティ達がああなんだって意味かと思った。ややこしっ』
『どういう間違え方だよ』

* *

あっぶね。勘違いしてくれてよかった!
ボロ出さないように気を付けなきゃ。


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