> 夫婦喧嘩は犬も食わない-1



――ねえねえ。
――なんだよ。
――けっこん、って知ってる?
――はあ?なんだ急に。
――お父はお母とずっと前にけっこん、したんだって!
――そりゃそうだろ。
――えっ。なんで三ちゃんが知ってるの!
――知ってるっつか、だってお前の親なんだから、そりゃ結婚してるだろ。
――えー?けっこんって、親になるってこと?
――いや、そうじゃなくて、男の人と女の人が一緒になることだよ。
――ふうん?じゃあ私と三ちゃんは?
――はあ?やっぱり馬鹿だなお前!
――バカじゃないー!だって私と三ちゃんずっと一緒だよ?
――そ、そういう意味じゃない!
今考えればとても馬鹿で恥ずかしいことを言ったなと思う。本当に、あの頃の私はもうちょっと勉強をするべきだったのだ。
しかし、あの頃の私に一言伝えるとするなら。
――本当にそうなったよ。とっても幸せ。

* *

久しぶりに会いたいな、という話になったのだ。
私と雷蔵は同じ城に抱えられているから頻繁に会えるが、他の三人はそれぞれ少し離れた場所で働いている。卒業した数か月後に一度会ったきり、五人が揃う機会は無かった。
手紙のやりとりで全員の休みが被るような日取りを決め、夜に集まって酒盛りでもするかという話になり。
――迷惑じゃなかったら、夢子ちゃんにも会いたいなあ。
という勘右衛門の意見があって、その集合場所が私達の家になったというわけだ。

最初に雷蔵と八左ヱ門が来た。
「三郎!久しぶりー」
「おー。なんで二人で?」
「ちょうどそこで会ったんだよ。兵助と勘右衛門は?」
「まだ来てない。多分もうすぐ」
雷蔵は時々家に来るので、安全な道をちゃんとわかっている。案内はいらないか。
元い組の二人が来てから行こうかと話していたら、ちょうどその二人がやってくるのが見えた。あっちも二人一緒か。
――あ、そうだ。
「雷蔵、八左ヱ門、ちょっと向こうの方で隠れててくれ!」
『は?』
急な私の指示に首を傾げた二人だったが、早く早く、と急かせばとりあえず従ってくれた。
この近所に住む農家の田中さん――よく野菜を分けてくれる、気の良いおばあさんだ――に変装して、私はい組の二人に近づいた。
「ちょいとそこのお二方」
「え?」
「僕らですか」
そうそう、と微笑んで頷くと、二人は顔を見合わせてから、なんでしょうと首を傾げた。
「さっき鉢屋さんと会ってねえ、もうすぐ友人が来るだろうから伝言を、と頼まれたんだよ〜」
「ああ、それは。わざわざすみません」
「いいええ。道なりに坂を上ったら、小高い丘になっているから、そこにある家よ」
「わかりました」
「ありがとうございましたー」
二人は相手が私だと気付かないまま、笑って礼を言って、指示した通りの道を進んでいった。
それを見送っていると、雷蔵と八左ヱ門が出てきた。八左ヱ門はよくわかっていない顔で二人を見ていたが、雷蔵は眉をひそめて三郎、と呟いた。
――思いついてしまったものは仕方ないじゃないか。可愛いいたずらだよ。
――まあいたずらってレベルじゃないといえば、そうだけどね。



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