> 腹が立つほど嫉妬する-3



三木ヱ門がため息をついて、わざとらしく肩をすくめた。
「まったく。急に怒って出ていくから驚いたぞ。なんなんだ一体」
「……もう、本っ当腹立つ!ちょっとはタカ丸さんを見習ったら!?」
私の気持ちがわかっていたらしいタカ丸さん。無関係な他人にバレるのはとても恥ずかしい。
――けど、三木ヱ門は一応私の恋人なんだから、ちょっとは理解してくれてもいいんじゃないの?
そういう意図で放った言葉だったが、三木ヱ門は一瞬きょとんとしてから顔をしかめた。
「なんでそこでタカ丸さんが出てくるんだよ」
「タカ丸さんはあんたと違って、話を聞いただけで私の思ったことに気づいたみたいよ!あんたは当事者のくせに全然わかってないから駄目なの!」
「話って……さっきまで会ってたってこと?」
「は?そうだけど?」
なんでそこに引っかかってんの、と思ったら三木ヱ門がむっとした顔をしたので理解した。
――だから、こいつに理解させたいのに、なんで私が。
「……なによ、嫉妬?」
「はっ?別に、嫉妬なんかしてないし」
「腹立つー。素直に認めなさいよ」
「だから違うってば!」
ムキになっちゃって、それが逆に肯定を表すってなんでわかんないかな。
「わかりやすすぎ」
「う、るさい!」
ふんと顔を背けた。そして今度は否定しないので、やはり嫉妬したというのは認めているんだろう。
「――あんた、本当に腹立つ」
「はあ?」
私が呟くと、三木ヱ門は横目にこちらを見た。
「お前、さっきから何をそんなに怒ってるんだ」
「それがわかってないから腹立つって言ってんの」
「お前が黙ってるからわからないんだろう。言いたいことがあるならはっきり言え」
――言えるわけないから言わないのに!
――なんなのよ、こいつ!
睨み付けると、三木ヱ門もむっとしたように眉をひそめてから、はあとため息を吐いて肩をすくめた。
「まったく、夢野は」
――あーもう、また!!
「そーゆーとこでしょーがぁ!!」
怒鳴ると、三木ヱ門は目を丸くした。
――ええい、この際勢いに任せて言ってやる!女は度胸!

「――あんたねえ、なんで私は”夢野”なわけ!?ユリコもカノコも名前呼びなくせに、なんで恋人の私が苗字呼びなのよ!ふざけんな!」

――そうだ、私が一番気に入らなかったのはこれだ。
――彼と恋仲になって二か月、私は未だに苗字呼びから脱出していないのだ。
――火器達は全員名前呼びなのに!
――……あれ?
そこまで考えて、私の言っている台詞がどこかおかしいことに気が付いた。
同時に、すごく恥ずかしい間違いをしたことにも気が付いた。
「……名前呼びって、ユリコ達は苗字無いだろ」
――淡々と修正すんな!!腹立つ!!私も今気づいたよ!!
顔から火が出るってこのことだ。三木ヱ門の顔を見られなくて、無言で俯いた。
ああ恥ずかしい!苗字呼びってことが気になりすぎて、まさかこんな変な間違え方をするなんて!
「……お前、もしかしてユリコ達に嫉妬したのか?」
三木ヱ門の問いに、ぎくりと肩を震わせる。どうしようどうしようと考えて、それから。
「っ、そ、そうよ!悪い!?私だってねえ、嫉妬ぐらいするわよ!あんたはいいよね、人間相手に嫉妬してんだから!私なんか火器よ!?そんなこと言えるわけないでしょ!?」
開き直った。もうなんとでもなれ!という思いで睨み付けると、三木ヱ門は目をぱちりと瞬かせた。
「なにが悲しくて物に嫉妬なんかしなきゃいけないわけ!?あんたの場合、下手な女よりユリコ達の方が好きじゃない!安心っちゃ安心だけどね、それはそれで色々困るのよ!!」
期待したのに火器の手入れを手伝わされ、でれでれと美しいだのなんだのと。気に入らないと思いながら、そんな変なこと言えないからずっと我慢させられて。
――ああ、本当に腹立つ!!
言いたい事を全て怒鳴り散らして、ようやく私は言葉を止めた。はあ、と息を整える私を、三木ヱ門はしばらくぼうっと見つめてから。
「……ははっ、なんだそれ!」
と可笑しそうに笑った。
「なんで笑うのよ!こっちは真剣なんだけど!」
「笑うに決まってるじゃないか!お前、そんなこと考えてたのか?」
三木ヱ門は、呆れたような面白そうな目をゆるりと細めた。
――その中にほんの少し優しい色が見えて、思わず口をつぐんだ。
「前から思ってたけど、お前って結構馬鹿なんだな」
「はあ!?馬鹿って……腹立つ言い方すんな!」
「馬鹿だろう、実際」
三木ヱ門はからかうように言いながら、ふっとこちらに手を伸ばした。
「――ちゃんとお前が恋人だ、夢子」
ぽん、ぽん、と二回。
一瞬なにが起こったか理解できなかった。
恋人だ、って。
撫でられて。
――名前で呼ばれた。
同時にそんな風にやられてしまっては。
「――は、腹立つ……!」
顔を真っ赤にしてそう呟いて強がるのが精一杯だった。

腹が立つほど嫉妬する

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