> 腹が立つほど嫉妬する-2



「っていうか、夢野ちゃんはそこに怒ったわけじゃないでしょ。話を聞く限り」
「え」
タカ丸さんの言葉に、思わずぎくりと肩を震わせてしまった。喜八郎は首を傾げる。
「そうなの?」
「ねー」
「えっ、いや」
――ちょっと待て、タカ丸さんは私の思ったことわかってるの?え?あんな恥ずかしい考えを?え?
「できたぞ夢野!
『滝夜叉丸
ああ 滝夜叉丸
滝夜叉丸』
どうだ!この私の美しさを称えるには、無駄な形容を付けずに名前だけを」
「あんたは黙ってろ。すごく腹立つ」
「滝夜叉丸空気読んで」
「えっ」
――というか要約になってない。
「もういい!私くの一長屋に戻る!」
「あれ、いいの?」
「なにがよ!」
喜八郎の言葉に眉を寄せると、相手はさらっとこう続けた。
「――だって、三木ヱ門待ってたんじゃないの」
「……まっ、待ってたわけないでしょ黙ってろ!」
怒鳴りつけて、私は縁側から飛び降りて駆け出した。
「……結局、夢野は何に腹立ててたんだ?」
「なんだ、滝夜叉丸聞いてたの」
「私にかかれば歌を詠むのも人の会話を聞くのも同時にこなすなど朝飯前……」
「で、タカ丸さんどうなんです?」
「無視か!」
「うん、まあ、夢野ちゃんも可愛いところあるよね――」

――しまった!
と気づいた時には、三木ヱ門は既にこちらを見てふふんと得意げに笑っていた。
「お前の考えなんかお見通しだ」
「腹立つー!そういうとこ本当に腹立つ!」
声をあげても全く動じない。はいはい、とあしらわれた。
「大方どこぞで時間を潰していて、しかし私が追ってこないので戻ってきたんだろう」
――合ってるから尚更腹立つ!
「うっさいわね!あんたなんか一人薄暗い倉庫の中で火器に欲情してりゃいいでしょ!」
「私がそんな気持ち悪いことするか!」
――いっつもそんな感じだろうがあんた!
普段は腹立つほどの自惚れ屋のくせに、アイドルとかなめたことも言ってるくせに、火器にでれでれしてるくせに。
やけに私の考えを理解している。
――っていうか、それなら私の気持ちにくらい気づきなさいよ!



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