> 腹が立つほど嫉妬する-1



思わずため息をついてしまうほどには、この私の恋人様は腹立たしい。
「見ろ!」
「……なによ」
目をきらきら輝かせて、恋人様は私を振り返った。
――言いたいことの予想くらい、簡単につく。
「やはり私のユリコ達は美しい!ああ、カノコもすぐに手入れしてあげるからね!な、夢野もそう思うだろう!」
――あー、もう限界だ。
「……あんた、本ッッ当に腹立つ!!」
ついに私は彼を怒鳴りつけて、倉庫の扉を乱暴に開いて外に飛び出した。

「――というわけで、こんなに完全無欠の滝夜叉丸としては、それぞれのファンの意向を汲んでだな、恋仲なんていう存在を作るわけにはいかないのだ!つまりあれだ、ファンサービスってやつだ」
「長い三行」
「えっ」
――そこで本当に三行でまとめようとするから滝夜叉丸は馬鹿なんだよ。
倉庫を飛び出してイライラしたまま歩いていると、ここでだらだらお喋りしている知り合い三人を見つけた。タカ丸さんが一番に私に気付いて、にこやかに手を振ってくれた。その流れで彼らに近づくと、また滝夜叉丸の自分語りが始まったのでうんざりして聞いていたところだ。
あーあ、と声を漏らして足を伸ばした。縁側に腰掛けているから、足は宙に浮く。それを何の気なしにぶらぶら揺らしていると、タカ丸さんが苦笑した。
「退屈そうだねえ、夢野ちゃん」
「そりゃあ暇ですよーっあいつのせいで!」
「三木ヱ門に期待なんかするから駄目なんだよ」
「私が悪いとでも!?」
食ってかかるとそっぽを向く。この喜八郎もなかなか腹の立つ奴だ。
「まあまあ。仕方ないよ〜」
「ですよね!私悪くないですよね!?」
「うんうん」
やっぱりタカ丸さんだけだよ、まともに会話できるのは!
私の恋人様、つまり忍たま四年の田村三木ヱ門。昨日彼は私のところにきて、こう言ったのだ。
――明日の放課後は空けておけよ。
「だってあんな言われ方じゃ、期待するでしょ!?なんかこう、サプライズ的な何かとか!そうでなくても逢い引きとか!」
「えー。めんどくさ」
喜八郎が呟いた。睨むとしれっとため息まで。
「なによめんどくさって」
「空けとけって言われただけで期待して、しかもそれに沿えないだけで怒られるとか三木ヱ門も大変ー」
「なんですって!」
「あー、こらこら。喧嘩しちゃダメだよ」
タカ丸さんが言うので、浮かせた腰をまた落とした。とはいえ喜八郎を睨むのはやめないけど。



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