> 初恋が迷子-3



次の日は三年一組に乗り込んで伊賀崎くんに約束をとりつけた。案外あっさり頷いてくれて不思議に思っていたが。
「……まさか委員会の手伝いさせられるなんて」
「助かったよ!またよろしくな!」
「うっ」
そんな輝かしい笑顔を向けないでください、竹谷先輩。
またなー、と手を振ってくれる彼に手を振りかえしていると、隣にいたはずの伊賀崎くんがいなくなっていた。
「ちょ、伊賀崎くん待って!」
「早く帰ってジュンコ達のお世話しなきゃいけないんだから、急いで」
「ええーまた動物の世話するの」
まったく、伊賀崎くんは人間より動物の方が好きだね!
「今日一日って約束だから、ジュンコ達の世話も手伝ってね」
「えー!」
勘弁してよ!私、君と違って別に動物好きでもなんでもないんだよ!
「あーあ。絶対、伊賀崎くんじゃないや」
「なにが?」
「初恋の人!」
「だろうね」
「だってよく考えたら、伊賀崎くん、人助けとかしなさそうだし!」
そう言うと、伊賀崎くんは失礼だな、と軽く眉をひそめた。
「これでも、こけそうになった人を助けたことって何回もあるんだよ」
「え、ほんとに?」
「うん」
えー。意外だ。
「ま、こけられたら虫が潰れそうだったからだけど」
「結局それじゃん……」
あーあ、絶対伊賀崎くんじゃない!
――そうだよ、そもそも私、あの人の笑顔に惚れたんじゃない。なんでこんな鉄面皮を選択肢に入れたんだろ!
「今失礼なこと考えなかった?」
「イエ、マッタク」

* *

――毎日知り合いに声をかけて、初恋の人かどうかを調べるんだって。
――でも僕のところに来ないってことは。
――やっぱり、その前の誰かだったのかな。
少なくとも藤内じゃない。それはわかってる。
突然夢野さんが藤内のところにやってきてから、二週間近く経った。彼女が挙げた名前は六人だから、とっくに一周しておかしくない期間。確か、藤内、孫兵ときて、三之助、左門、作兵衛。その次が、一応僕。まあ、あの様子を見るに、忘れられてるような気がするけど……。
――『忘れられてたら、一周して二度目に来た時にちゃんと言ってあげるね』
と、藤内は言ってくれたが。そんな心配も杞憂だった。一周する前に、彼女は初恋の人を見つけてしまったのだろう。
最近、彼女は二組の三人と一緒にいることが多い。僕に周る前に、あの三人のうち誰かが初恋の人だって気づいて、やめたんだろう。
――不運だなあ。
――ずっと好きだったんだけどなあ。



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